シマンテックは11月30日、米国本社のCEO エンリケ・セーラム氏の来日記者会見を開催。同社の今後の方向性を示すとともに、新たな企業買収の可能性についても示唆した。

「未来を約束するもの」から欠けているもの

シマンテック・コーポレーション 社長兼CEO エンリケ・セーラム氏

同社は今年だけでも5つの買収を実施しており、事業領域の拡大を図っている最中だ。

セーラムCEOは今回の記者会見で、「未来を約束するもの」とされる同社の今後の事業領域として、「個人認証セキュリティ」「デバイスセキュリティ」「情報の保護」「前後関係と関連性」「クラウド」の6つを掲げた。

同氏が「今後はコンシューマとエンタープライズの領域が融合するようになる」と語る「個人認証セキュリティ」については、ベリサインのセキュリティ事業買収によってすでに業界のリーダー的ポジションを確実なものにしつつある。

「デバイスセキュリティ」は主に暗号化の事業を示すものだが、これはPGPやGurdianEdgeの買収により、すでにリーディングカンパニーへの道を歩み始めている。

「情報保護セキュリティ」は同社が長年取り組んでいるバックアップやリカバリを含むセキュリティソリューションの領域であり、VERITAS Softwareの買収(2005年)などによって近年強化が図られている。

「クラウド」は、アプリケーションの機能をSaaS型で提供するものとして位置付けられているが、同社傘下のメッセージラボによるメッセージングソリューションやオンラインバックアップサービスなどを展開し、世界ではすでに多くのユーザーを獲得している。

同社はこれまで、"水平展開型戦略"に基づく買収による事業領域の拡大を図ってきたが、今後も企業買収を続けるという。そうなると「次にどの企業を買収するのか?」という点が気になるところだが、同氏は具体的な言及は避けつつも「このスライド(下図)にヒントがある。どこが当社に欠けているかを考えてほしい」とし、次なる企業買収のターゲット領域について示唆した。

この点について同氏は、「モビリティと情報分類(カテゴライズ)が重要になる」と語っているが、上記説明から外れている「前後関係と関連性」(これだけだとわかりにくいが、"情報"を管理するツール)の領域がそれに該当する模様だ。

「未来を約束するもの」と称された同社の今後の事業展開領域

"情報保護ベンダー"を目指す

セーラムCEOは記者会見の冒頭で、IT業界におけるいくつかのトレンドに対する考えを明らかにした。

この「トレンド」には、当然ながらモバイルや仮想化、クラウドといったトピックスが含まれていたが、同氏が最も強調していたのは、「ソーシャル」と「コラボレーション」である。「電子メールは明らかに非効率」と語る同氏は「新たなソーシャルテクノロジーによってユーザーがコラボするようになる」とし、その具体例としてイラストを使ったスライドを披露した。

シナリオ"ジュリーの一日"の一幕。統合化された情報基盤上で様々な情報を扱うようになることを示した例

"ジュリーの一日"と題されたこのシナリオは、同氏が「ユーザーが望んでいる」とする「ビジネスとプライベートが融合」した、近い将来のITと我々の関わり方を示したものだが、その中で中心的な役割を果たすのは各種情報が統合化された「ソーシャルネットワーク」である。

こちらも"ジュリーの一日"の一幕。「ビジネスとプライベートの融合」の具体例が示された

同社からは今年、「"人"と"情報"にフォーカスする」というメッセージを耳にする機会が何度もあった。「セキュリティベンダー」と呼ばれることが多い同社だが、同氏は会場の記者からの質問に対し、今後は「情報保護ベンダー」と呼ばれるようになりたいと語っている。

かつてのセキュリティベンダーとしての同社の姿を思い出すと、「ソーシャルネットワーク」や「コラボレーション」が同社の戦略の重要な要素になるとは思いもよらなかったが、同社は既存事業で築き上げた「信頼」を武器に、まったく異なる会社に生まれ変わろうとしているようにも見える。

今後も企業買収を続けることを公言し、拡大を続ける同社の動向は引き続き注目しておくべきだろう。