--Symbianのシェアが縮小していますが、これを懸念していますか?

Symbianは現在でも最大シェアを持つスマートフォンOSです。NokiaはNokia N8を筆頭に、今後も素晴らしいSymbian端末を投入する予定です。将来的には、ハイエンドのMeeGo端末が出てきます。MeeGoの受け入れが進めば、Symbianシェアの縮小を相殺すると予想することもできます。

(注: 本インタビューはSymbian FoundationがNokia管理下に入る発表以前に行われました)

--Webの普及により、ユーザーはブラウザでさまざまなことができるようになっています。ネイティブアプリケーションとWebアプリケーションのバランスは今後どうなると見ていますか? QtはWebKitを統合していますが、Qt Webkitの取り組みについて教えてください。

ネイティブアプリケーションは引き続き必要で、市場は大いにあると思います。今後はネイティブのパワーを利用でき、同時にどこにいても容易にアップデートでき、すぐにWebにアクセスできる、そんなアプリケーションが求められると予想しています。

Qtは約2年前にWebKit統合を導入し、大きな進化を遂げました。ユーザーの反応はよく、Qt WebKitは現在、最も利用されている機能となっています。WebKitはQtにとって重要で、今後独立したモジュールにします。これにより、容易にアップデート可能となり、WebKitモジュールのメリットをさらに拡大できます。

先に発表したQt 4.7では、パフォーマンスの面でWebKitを強化しました。ズーム、スクロールなどの性能が改善し、Facebookなどの複雑なページでは67%、シンプルなページなら350%も高速になります。

今後の強化としては2つのシナリオがあります。1つ目は、ブラウザとのコネクションインタラクションの改善、2つ目はWebアプリケーションのネイティブへの組み込みです。これによりWebアプリの組み込みが容易になり、製品内で動くようになります。

Web統合は必至の流れで、今後アプリケーションはWebとのシナジー効果を出す必要があります。Netflixなどは良い例で、Qtを利用してネイティブのパワーを利用しつつ、Web経由で継続的にアップデートしています。われわれとしても、このようなハイブリット事例を奨励していきたいと考えています。

--IDEのQt Creatorの動向について教えてください。提供から1年が経過しますが、現在どのような層を狙っているのですか?

ダウンロード数は最初の年(2008年)で20万回でしたが、今年は150万回に達すると予想しています。あらゆるカテゴリで成長しており、当初のデスクトップからモバイル、組み込みなどに拡大しています。今後もQt Creatorの技術革新のための投資を拡大していく方針です。

このように、Qt開発者の裾野が広がっており、Creatorのターゲットグループも変わってきました。2008年に導入時、Creatorの顧客は.NETアプリを開発するWindowsカスタマーなどのデスクトップカスタマーが主でした。ですが、デスクトップでは、「Visual Studio」などのホームメードソリューションを完全に置き換えることはできません。

Qtはモバイルアプリに照準を移しており、MeeGoとSymbian向けの開発プラットフォームという役割も持っていますが、ここではCreatorがベストといえます。

Creatorではモバイルとデスクトップのクロスプラットフォーム開発も可能です。現在、モバイルユーザーの比率は多くありませんが、デスクトップとの境界はあいまいになっています。また、組み込みではWeb対応も進んでおり、Creatorの需要はあるとみています。

--今年のカンファレンスでは車載システムの展示が目立ちました。

MeeGoは先に、自動車業界のIVI(車載インフォインフォテインメント)標準のためのGENIVIイニシアティブにより、リファレンス実装として選ばれました。その理由の1つがQtです。Qtは自動車業界で使われており、Nokiaも自動車内で携帯電話のコンテンツを閲覧したり、ゲームができる「ターミナルモード」などの技術を貢献しています。

自動車以外にも、インターネット対応TVやSTBでQt利用が進んでいます。今年のイベントでは、メディアフォン(IPエンタープライズフォン)、Eブックリーダーなども展示しました。このようにQtが使われているところは、MeeGoが狙っているところと重なっています。Nokia買収前のTrolltechの「Qtopia」のときから、組み込み業界と協業しており、営業部隊も当時から変わっていません。

--LGPLを導入して1年以上が経過しますが、収益への影響は?

制限の緩いLGPL 2.1を導入したことで、ダウンロード数が大きく増えました。LGPL版を利用して商用でQtを利用する顧客が増えています。

中でも、組み込み分野では大きなシフトが起こっています。組み込み分野はこれまで自社でプロプライエタリのGUIツールやフレームワークなどを持っていましたが、プロプライエタリ離れが起こっています。

LGPLによりQtを無料で利用できるようになりました。それだけでなく、Qtは継続的に改善され、新機能が加わっています。また、ハイテク業界でイノベーションがたくさん起こっているモバイルの素晴らしい機能の影響力は大きくなっており、それがQtへの関心にもつながっています。

--日本のQt開発者へのメッセージをお願いします。

日本でもLabsブログが始まったと聞いています。今後、イニシアティブを拡大していくので期待してください。プロジェクトを増やし、活動を活発にしていきます。

われわれの願いは、開発者にQtを選んでもらうことです。QtはNokiaのニーズを満たす役割を持ちますが、社外で使われていないと競争力のあるフレームワークになれません。これを確実にするために、Qtはオープンガバナンスモデルをとっています。これにより、"このモジュールは自分たちが統括して進める""ロードマップに責任を持つ"というふうに、他社が責任を持って開発を進めるプロジェクトが出てくることになると期待しています。

Qtは急速に成長しており、Nokiaだけでは支えられません。オープンガバナンスにより、イノベーションを加速します。Qtを使う企業でQtの将来を作っていくので、Qtの競争力は自然と強化されることでしょう。

"ラボジャパン"ことQt Labs JapanのWebサイト。翻訳による情報だけでなく、日本人開発者からの投稿も多い