「3ds Max」のスクリプトMAXScriptの利点
現在、映画業界のトレンドといえる「3D」ブームを作った映画『アバター』。今回、『アバター』のVFX制作に関わったクリエイター クリス・ボンド氏(元Prime Focus Film VFX 代表取締役 ※2010年7月当時)に取材を敢行した。
ボンド氏はアバター以前に『G.I.ジョー』、『レッドクリフ』、『センター・オブ・ジ・アース』などのVFX監督を務めた人物。これらすべての作品では、『3ds Max』を使用していて、それ以外の選択肢は考えられないとまで言い切る。それもそのはず、ボンド氏はなんと18年も前から3ds Max(当時はDOS版)を使い続けているのだ。その理由をボンド氏は、「3ds Maxのスクリプト『MAXScript』がとても使いやすく高速だから」と語った。
ボンド氏のスタジオには、MAXScriptのスペシャリストが常駐しており、映像制作には彼らが欠かせない存在だと語る。最近の映像制作業界では制作スピードが求められていて、作業の効率化が重要課題。そのため、可能な限りMAXScriptで作業を自動化させ、制作時間を短縮させる必要があるわけだ。例えばキャラクター1体をモデリングしたら、そのモデルデータの異なったバリエーションのものやアニメーションはMAXScriptで自動生成させる。スクリプト自体はMayaやSoftimageにも搭載されているが、「実行速度は3ds Maxがもっとも速かった」とクリス氏は語る。実例として挙げたのは、『スーパーマン リター ンズ』に登場するクリプトナイト(緑色の鉱物)のCGシーン。これは当初、別の3DCGソフトで制作を検討していたが、MAXScriptを使った方が高速化できることがわかり、結果として3ds Maxを採用することになった。また、MAXScriptはプログラムが速いだけでなく、スクリプトを作りやすいのが特徴だと言う。いくらプログラムが速くてもスクリプトが組みにくい場合、結局は納品までに時間がかかってしまう。3ds MaxのMAXScriptは、動作も開発もスピーディーなので、映像制作には最適なツールのようだ。
3ds Maxのふたつ目の利点としてボンド氏が挙げたのは、多くのプラグインが世界中に出回っているという部分。ボンド氏のプロダクションではクライアントから依頼があったとき、まず最初にどのプラグインを用いるかの選定から始めるそうだ。適切なプラグインを使えば、作業の効率は大幅にアップする。
ボンド氏は映画『レッドクリフ』の艦隊戦シーン(赤壁の戦い)を制作したときのことを振り返る。
「大河(長江)に数え切れないほどの船が浮かんでいるというシーンですが、一見するとすべて3DCGをコピーして作られているように見えますが、実はすべての船は船体やマストなどが少しずつ異なった唯一のオブジェクトなんです。これをすべて手作業で作っていたのでは、時間がどれだけあっても完成しません。そんな面倒な作業をプラグインを用いることで、たった8週間で完成させることができたのです」(ボンド氏)
『アバター』制作秘話
『アバター』の制作で心に残っているのは、「ヘリコプターが飛んでいるシーンを作ったときのこと」とボンド氏は語る。このシーンはジェームズ・キャメロン監督が特に気をかけていたシーンで、4つの制作会社に同じ映像を作らせ、もっとも完成度の高い映像を採用すると宣言したそうだ。ボンド氏は見事コンペに勝利し、ボンド氏の制作した映像が本編で採用されることとなった。興味深いのは、コンペにかけられた4作品で、3ds Maxを使用していたのはボンド氏の作品だけだったという点だ。ボンド氏は「VFXの業界ではMayaのほうが多く使われているが、3ds Maxも使いこなせば十分にいい作品が作れるという好例を示せたのではないでしょうか」と制作当時を振り返った。
3D映画ブームはどこへ向かうのか
いま流行っている3D映画だが、ブームは一過性のものだと言う意見もある。ボンド氏の元にも多くのマスコミが話を聞きに来るそうだ。ボンド氏は「初めて立体視映画を見たときは興奮したが、僕がそれを見て思ったのは、制作側の人間は立体視の効果的な使い方を学ばなければならないということ」と話す。ボンド氏は映像が白黒からカラーに変わったときのことを例に出して説明してくれた。「何十年か前に映像がカラーになったとき、みんな色の使い方を学び始めた。それと同じように、我々はいま、立体視の使い方を学ばなければならない。ただ3Dにするだけでなく、どんな表現手段として使うかがとても重要だ」
映像クリエイターになるためには
ボンド氏はこれからCGを始めたいと思っている人へのメッセージとして、「映画の特殊効果制作に関わっている私でも、いまでも毎日が勉強です。新しいプラグインもどんどん誕生してくるので、いつまで経っても勉強が続くのです。努力と時間を惜しみなくかけていれば、きっといいものが作れるようになります。どんなクリエイターも、そうしているはずです」と語った。
なお、ボンド氏は2010年11月現在、Prime Focus VFX社を離れ、ハリウッドの映像コンサルタントとして活躍している。