出版の枠組みを超える"BCCKS"
2008年にスタートした「BCCKS」は、誰もが簡単に「本」を作ることができるCGM(Consumer Generated Media)だ。ブログサービスを運営している企業があるように、BCCKSはウェブ上で「もうひとつの本のかたち」を展開するサービス。それは本の可能性を拡張する「アプリケーション」であり、同時に、さまざまな本が集まる、新しい「場所」でもある。という意味では、1990年代に松本が実践していた「マッキントッ書」や「フロッケ」の発想とも共通している。
Guest 01 松本弦人
1961年東京生まれ。1990年株式会社サルブルネイ設立。広告、書籍、映像のアートディレクションを手がける。デジタルメディアへの関心も強く、フロッピーディスク『Pop up Computer』、CD-ROM『ジャングルパーク』、ゲームソフト『動物番長』の開発にも関わる
BCCKS:http://bccks.jp/
BCCKSの(アプリケーションとしての)魅力は、なにより、ユーザビリティの高さだろう。テンプレートを利用すれば、誰でも手軽に本づくりが楽しめるのだから。実際、松本は、ガイダンスを行ないながら、サンプルブックを、手早く制作していた。
BCCKSのWebサイトより。版元でなくCGMであることが特徴でもある |
「スタートして1年目、リトルモアと共同で、写真公募展を開催しました。BCCKSにとっては、これがけっこうエポックメイキングなイベントで。応募した写真は、ウェブ上で公開されるわけですが、面白かったのが、参加者によって、公募展のトーンが決まっていったこと。つまり、できあがった作品同士で、作者同士がコミュニケーションしている。写真自体の面白さもあるけれど、そういう状況にも手ごたえを感じて」
現在、BCCKSでは新しいトライアルを行なおうとしている。“One Coin パブリッシュ”と銘打って、「bccksbunko」というサービスをスタートさせるというのだ。ウェブ上で展開してきた本を、今度は「紙の本」(48ページ、モノクロ、文庫版、500円)として刊行するという試みだ。
ウェブで制作した本を紙の文庫本に印刷できるサービス「bccksbunko」は、簡単な操作でジャケットや中面の編集が可能。制作した文庫を販売することもできる(現在は一部モニターのみ利用可)。写真はジャケットの編集画面(左)と本文と写真の編集画面(右) |
「要するに、オンデマンド出版ということなんだけれども、数年前に比べると、印刷技術が格段に進化している。ようやくオンデマンドのレベルが使えるものになってきた実感がある。本格的なサービスを開始する前に、まずは文庫内レーベルとして〈天然文庫〉を起ち上げ、“100人の著者による100冊の文庫”を販売していく予定です」
現在は23冊が刊行中。アーティストのKYOTAROや花代、ADの浅葉克己、ミュージシャンのJOJO広重や寺尾紗穂などの本を購入することができる(なお、定価はそれぞれ異なる)。
「天然文庫の100冊」は「bccksbunko」のシステムで作られる「あたらしい出版」の試み。文筆家、編集者、写真家、ペインター、アーティスト、デザイナー、建築家、ミュージシャン、キュレーター、shop経営、プロダクション、イベント運営など、様々な分野の100人の著者による100冊の文庫本を、不定期月で約8冊ずつ、2年かけて発行する。写真は最新の第三弾ラインナップより |
天然文庫は、iPhoneやiPad、キンドルなど各種デバイスに対応したフォーマットを開発中だ。なお、松本自身は、Android搭載の7インチタブレットの“サイズ感”が、天然文庫に似合っていると感じているとのこと。
「繰り返すと、BCCKSは出版社ではなくCGM。なので、プロやセミプロだけじゃなくて、一般のユーザー含め、さまざまな目的の、さまざまな本が、ランダムに並んでいる。有名写真家の作品集の隣に、子育て日記があるようなアナーキーさというか。だから、いままでの出版の枠組みからは、絶対に出てこなかったようなものが、生まれる可能性がある。この先、めちゃくちゃ面白いことが起こるんじゃないかと期待しているんですけどね」