日立製作所は10月12日、腫瘍組織の超音波診断向けの造影剤として研究を進めている数百nmサイズの液滴(ナノ液滴)を用いて、従来に比べ約10分の1の超音波エネルギーで腫瘍組織を壊死させる技術を開発したことを発表した。

すでに同社は2006年に東京大学と共同で腫瘍組織の内部に到達するまではnmサイズの液滴で、到達後に超音波を照射すると、μmサイズの気泡(マイクロバブル)に変化し、腫瘍を精細に画像化するナノ液滴法を開発しているが、今回の技術は、通常1,000分の1秒程度で消失してしまうナノ液滴から生成したマイクロバブルの存続時間を制御することに成功したというもの。

現在、超音波診断では、マイクロバブルと呼ばれる微小な気泡からなる造影剤が使われているが、マイクロバブルは体内の血管を循環して腫瘍の血管を造影することができるが、サイズが大きく、血管外には漏出しないため、腫瘍組織の内部に到達することが困難であった。また、その一方で、超音波を集束して腫瘍組織に照射し、そのエネルギーによって腫瘍組織を加熱凝固し壊死させる方法が実用化されている。

同社でも、ナノ液滴法を用いて生成された腫瘍組織の内部に局在するマイクロバブルによって超音波の加熱効果が高まり、超音波照射のみの場合に比べて約10分の1のエネルギーで腫瘍を選択的に加熱凝固させることができ、同時にマイクロバブルと超音波の相互作用による組織破砕が起こることで、腫瘍を壊死させられることを確認していた。しかし、腫瘍組織の内部に局在するマイクロバブルは、通常1,000分の1秒程度で消失してしまうため、腫瘍組織全体にダメージを与えるためには、マイクロバブルの生成と、壊死させるための超音波照射を繰り返し行なう必要があり、結果として治療時間が長くなってしまうという問題があった。

今回、同社では、ナノ液滴法により生成したマイクロバブルの存続時間を制御する技術を開発。腫瘍組織の内部にあるマイクロバブルに対して弱い超音波を照射すると、10秒以上にわたって存続できることを新たに発見。生体の模擬体による実験では、照射する超音波の条件を最適化することで、マイクロバブルを広範囲に存続させることが確認され、ナノ液滴を静脈投与したマウスを用いた実験でも、マイクロバブルを存続させられることが確認されたという。

これにより、腫瘍組織の内部にマイクロバブルを行き渡らせたことを確認してから、超音波を照射して腫瘍組織を壊死させることが可能になり、マイクロバブルによって超音波の加熱効果が高まることから、従来の超音波だけの照射に比べ、約10分の1の超音波エネルギーで腫瘍組織を壊死させることができるようになるという。そのため、ナノ液滴を造影剤に用いて腫瘍を精細に観察しながら、従来に比べ、より小さな超音波エネルギーで選択的に腫瘍を壊死させることが可能となり、診断から治療まで超音波を用いて一貫して行える医療技術の実現に道が開かれたと同社では説明しており、超音波治療に適用できれば、治療時間の短縮と患者への負担軽減が可能になると期待を寄せている。