Hot Chips 22では、8月22日の午後に光伝送技術のチュートリアルが行われ、8月23日にはIntelの50Gbpsの光伝送技術の発表、8月24日にはLuxteraの25Gbps以上という光伝送技術が発表された。また、25日の午後に発表されたIBMのPOWER7 HUB Moduleは56本の12芯光ファイバを接続する超広帯域のスイッチである。
10Gbpsを超える高速伝送は、電気信号では減衰が大きく長い距離の伝送が出来ないので光の独壇場であるし、プロセサの性能向上にともないI/Oやメモリとの接続バンド幅の増大が要求されてI/Oピン数が不足になりつつある。ということで光伝送、特に、シリコンのVLSIで直接光伝送を行うシリコンフォトニクス技術に注目が集まっている。このシリコンフォトニクスのHot Chips 22での発表を見ていこう。
光技術のベーシック
シリコンではバンド間の電子移動は間接遷移が支配的なので放出されるエネルギーは熱になってしまい、直接遷移型のGaAsやInPなどのようにレーザーを作ることができない。また、光伝送に使われる1.1~1.6μm程度の波長の赤外線に対してはシリコンは透明であり、光の伝送路としては良いが、光と反応しないので光の検出器をつくることが出来ないという問題がある。
このため、光通信ではGaAsやInPなどの材料を用いてレーザーやフォトダイオードを個別部品として作り、シリコンなどで作られた電子回路と接続して送受信機を作るというアプローチが採られてきた。しかし、これらの個別部品を組み合わせた光伝送回路は非常にコスト高であり、長距離の通信回線には良くても、大量のチャネルを必要とするLSI間の通信などには実用的でなかった。
これに対して、LSI技術でシリコン基板に光の送受信回路を作ることができれば、組み立ての手間も少なくなり、低コストで多チャンネルの光送受信回路が作りうるということでシリコンフォトニクスの研究が続けられてきている。
光源のレーザーはシリコンだけでは作れないので、シリコン基板上にGaAsやInPなどで作ったレーザーチップを搭載したり、光源は別チップとしたりするアプローチが一般的であるが、Intelの発表のところで紹介するように、IntelはSiとInPのハイブリッドレーザーという技術を開発している。
半導体レーザーはある程度以上の電流を流すと発振が始まり、電流の増加に伴って光が強くなるので、レーザーに流す電流で光の強弱をつけるという方法もあるが、高速の変調が難しいことから、ここで紹介するIntelとLuxteraの発表ではレーザーからの光強度は一定として、シリコンチップ上に変調器を設けて光の強弱をつけるという方法を採っている。
変調の原理であるが、シリコンで作った導波路は、シリコンに含まれるキャリアの量によって光の速度を多少変えることができる。
この図の右上の断面図のように酸化膜の上のシリコン層にP型シリコンで導波路を作り、隣接してN型のシリコン領域を作る。このpn接合に逆バイアスを掛けると空乏層が広がって導波路のキャリア濃度が変化し、光の速度が変わる。
Mach-Zehnder干渉計は、レーザーからの光を二等分し、それぞれを遅延時間が可変できる導波路を通し、その後、2つの光を合体させるという構造になっている。双方の導波路の遅延時間が同じ場合は、光の波の山と山、谷と谷が重なり、分割前の強さの光になる。一方、2つの導波路の遅延時間が半波長分異なると、光の波の山と谷が重なることになり、光は消えてしまう。このタイプの変調器は温度変化などにも強いが、遅延時間を稼ぐためには数㎜以上の長さの可変遅延導波路が必要で、形状が大きくなるというのが欠点である。
一方、最近ではリング共振器を使う変調器の研究が進められている。リング変調器は、信号となる光の導波路に近接してリング状の導波路を作る。
この図の右上の写真でTi Heaterと書かれている部分の下(紙面、奥行き方向)にリングの導波路があり、リングの下側に薄い横線が見えるが、これが信号光の導波路である。
信号光は近接するリングにカップリングし、リングの共振周波数と信号光の周波数が一致すると信号光を吸い込んでしまい、中央上側のグラフのように信号光は20dB程度(エネルギーでは1/100)減少してしまう。したがって、このリングを可変遅延導波路で作り、遅延時間を変えると共振周波数が変わり、信号光が吸収されたり、ほとんど減衰なく通過したりさせることができる。このスライドではリングの直径は25μmであるが、別のスライドでは5μmというものも紹介されている。
リング共振型の変調器はMach-Zehnder型に比べるとコンパクトでチップ面積が小さいという利点があるが、温度が変わるとリングが伸び縮みして共振周波数が変化してしまう。そのため、リングの上にヒーターをつけて温度変化を補償するという構造になっている。
そして光の検出にはフォトダイオードが使われるが、シリコンのダイオードでは光が素通りしてしまうので、この波長の光は検出できない。このため、赤外線を検出できるゲルマニウム(Ge)をシリコンの上に成長させてフォトダイオードを作るという方法が一般的である。