産業技術総合研究所(産総研)は8月25日、人間の錯覚を利用して高感度な触力覚を連続的に提示できる小型の非ベース型錯触力覚インタフェースと立体テレビを組み合わせることで、立体映像に触覚(感触)や力覚(手応え)を与え、さらに感触で確認しながら形状デザインを行うことができるシステム「i3Space(アイ・キューブ・スペース)」を開発したことを明らかにした。

同システムは触覚や力覚に関する錯覚を利用して触感や手応えを提示する技術を応用したもの。立体映像に感触や手応えを与え(可触化)、複数の指で立体映像を直接操作(マルチタッチの3次元化)できるようにしたバーチャルリアリティー(VR)空間生成システムで、錯覚(illusion)を活用し、直感的(intuitive)な空間理解と自然な操作性によって、ひらめき(insight)の創出を支援する活動空間(space)を提供することをコンセプトとしている。

産総研が開発した高感度・非ベース型錯触力覚インタフェース(左)、触れる立体テレビ(中)、位置測定用マーカーを装着した錯触力覚インタフェース(右)

立体映像の触力覚シミュレーションを行うリアルタイムVR空間生成システム、錯触力覚インタフェース(触力覚を提示する錯触力覚デバイスとデバイスを制御する錯触力覚コントローラー)、指の動きを測定するマルチ・ポジション・トラッカーシステムから構成されている。リアルタイムVR空間生成システムは、コンピュータ内のVR空間で、環境や物理モデルの動きをシミュレーションし、動きに合わせた反力や立体映像を生成するシステムで、ユーザーの動作や指の位置から物理モデルに働く力を計算し、この力による物理モデルの変形・動作がシミュレーションされ、ユーザーに働く力や立体映像がリアルタイムで生成される。

i3Spaceのシステム構成

また、マルチ・ポジション・トラッカーシステムは、ユーザーを複数のカメラで取り囲み、指先に装着したマーカーの位置を測定するシステムで、複数台のカメラを使用することで死角のない測定を実現している。

錯触力覚デバイスは産総研が開発した、対象物の位置・大きさ・硬さの知覚や動き・形状の変化といった多様な表現を可能にした非ベース型錯触力覚インタフェース「GyroCubeSensuous」を採用している。

通常、LCDなどのタッチパネルは接触対象であるパネルが平面であるため、操作ポイントの選択や確認が容易であるが、立体映像に対するタッチ操作では、触ったという触力覚フィードバックがないと接触の確認のため、映像上の接触点を凝視しなければならないという問題があった。また、立体映像からの反力がないために自然な操作性が得られにくいという課題も存在していた。そこで、同システムでは、指先の位置を測定し、指と立体映像との接触および力の相互作用を計算、その力を錯触力覚インタフェースで提示することで立体映像に指で触れた感覚を与えている。

指を押しつけるという動作に対して、抗力や摩擦力を再現することは、指の動きと力の方向が一致しない場合や実体が存在しない立体映像の場合は難しい。また、静止した指に対して力を感じさせ続けることはさらに難くなるが、今回のシステムでは振動に対する錯覚を利用することで実体が存在しない立体映像でも触力覚の提示を可能としている。

さらに、立体視では、映像が手元に見えるように飛び出し感を強調し過ぎると眼精疲労の原因になりかねないという課題があるが、これは、右眼および左眼に入射する映像の分離が悪くなることと、ユーザーが感じる立体映像の位置と実際のディスプレー画面における画像の位置が一致しないことによることから、同システムでは立体像と指の位置を一致させずに、立体映像にかざした指先に手応えを提示する間接的可触化を行った。

加えて、同システムでは、マルチ・ポジション・トラッカーシステムによって6方向から同時に複数の指の動きを測定するため、指の動きが手のひらによって隠されることなく、指の位置から、指と立体映像との接触、立体映像をつまんだクリップ動作、クリップした後の拡大・縮小動作を検出することが可能。これをもとに、立体映像と指との間に働く感触や手応えを計算し錯触力覚インタフェースを制御することで、力を感じさせることに成功。これにより、複数の指先の動作で立体映像の移動・変形・回転操作を3次元で直感的に行うことが可能になったという。

立体映像からの感触や手応えを得ている様子

3次元マルチタッチ(変形)

結果として、同システムを応用することで、立体映像の変形による反力を力覚で確認しながら変形具合を調整し、3次元形状をデザインすることが可能となり、同時にデザイン結果が数値データとして得ることが可能となる。また、足元のバランスセンサにより体重移動および姿勢をモニタリングすることで3次元空間内での視線の移動を補助できるため、ろくろを用いた陶芸のように、立体映像を回転させ感触で確認しながら壺の立体造形を行うことができ、感性を刺激しながらの創作活動を支援することができるようになるという。

なお、産総研では、今回の成果は産総研の単独開発によるものであることから、将来的にはベンチャー創業を目指す方針で開発を継続し、今後は小型化・高機能化を進めるとともに、スマートフォンなどへの対応および家電・情報機器メーカーとの連携・共同開発を推進することで、用途に応じた開発および実証実験を図って行きたいとしている。