「有効利用」で暮らしを豊かにする

「カリモクにはトップ家具メーカーとしての歴史があります。良質の材料も揃う。つまり、カリモクそのものが日本の家具デザインの縮図。カリモクが変わらないと日本のデザインも変わらない、逆に言えばカリモクが変われば日本のデザインも変わると思っています」(柳原)


柳原照弘 Yanagihara Teruhiro

1976年香川県生まれ。プロダクト・空間デザイナー。99年、大阪芸術大学デザイン学科卒。2002年「ISOLATION UNIT/TERUHIRO YANAGIHARA」設立。2009年GROWソファをOFFECTより発表。現在は国内、スウェーデン、デンマーク、イタリア等でプロジェクトを進行中
http://teruhiroyanagihara.jp/



そのように語る柳原氏をクリエイティブ・ディレクターに起用した新ブランドKARIMOKU NEW STANDARDは、森林保全や林業地域の活性化といった「木」をめぐる社会問題群をデザインという方法で紐解いていく試みであり、20年以上にわたり、同社が向きあってきた結果として出されたひとつの解答である。

「同ブランドでは、主に紙パルプ原料のチップにされてきた国内広葉樹の有効利用をテーマとしています。通常、家具作りに不向きとされるそのような材料を利用するということは、ガマンを強いるメンタリティを生む傾向があると思うんです。細い、節がある、長さにばらつきがある等が通常の製品品質ではないことの理由になってしまう。しかし、楽しく明るくより豊かな暮らしのために、家具作りに不向きな木材を利用することもできるはずだ、と。そういう意味で、柳原さんは、私たちの課題を俯瞰的に整理し、ブランド全体で解決を導いてくれるコンサルタントでした」(加藤)

「まず提案したのは、カリモクがこれからやろうとしている事を一緒にらせてもらえませんか、ということでした。その延長として家具も作りましょう、と。コンサルタントとおっしゃって頂きましたが、僕としては"編集"の方が近いかもしれません。カリモクが持っている独自のコンテンツをどう編集して世の中にアピールできるのか。それこそ、インハウスでないからこその視点だと思います」(柳原)

「KARIMOKU NEW STANDARD」の作品は2010年7月17日からCIBONE青山にて先行発売が開始され、今後は日本全国から、アジア、欧米でも発売が予定されているとのこと



スタンダードがあるからこそのNEW STANDARD

ブランド名はブランドの第一印象を決める、いわば顔である。それゆえ、ブランド名の策定は、ブランディングのプロセスにおいて最も重要なファクターであり、方向性を左右するプライオリティの高い作業である。しかし、KARIMOKU NEW STANDARDという名称を決める際に時間は要さなかったという。さらに、数多ある候補のなかで、最もシンプルなネーミングであった、とのことだ。

「カリモクが持つ伝統的な職人ワザ、先端技術の導入、資材調達から環境への取り組みからまでを誤解なく、正しい情報として伝えることこそがベストであると考えました。新しいブランドを"NEW STANDARD"と位置づけることによって、いまあるカリモクの価値を『スタンダード』として認知してもらう。新ブランドを知ることは、つまりカリモクを知ることである、という構図を描きたかったんです」(柳原)

よりよい世界の実現へ向けて人々の意識が変わるきっかけとなり、新しい考え方や生き方(新たなスタイル)が生まれて欲しいという思いも込められた「KARIMOKU NEW STANDARD」

「"KARIMOKU NEW STANDARD"と提案された瞬間に『いいね』と(笑)、腑に落ちたんですね。カリモクが掲げている『品質至上』や『木製家具の製造と販売を通じ、広く人間社会の向上に貢献する』目的がスタンダードならば、スタンダードがあるからこそ"NEW STANDARD"が生まれ、"NEW STANDARD"によってスタンダードは継承される。100%DESIGN TOKYOやミラノ・サローネでは、海外関係者からも良い評価を頂きました。これまでにアプローチできなかったターゲットへ向けて新ブランドは機能すると思いますが、カリモクの水つまりが根底に流れていることを理解してもらえる良い機会になるはずだと考えています」(加藤)

2010年7月17日から、同ブランドの家具がCIBONE青山にて先行販売が開始され、近い将来にはラインナップや参加デザイナーの数も徐々に増やしていくとのこと。流通チャネルが増え、新ターゲットを獲得するなど、確実に実を結びつつある新ブランドは、しかし変わらないカリモクの価値を継承していく手段として、来るべき時代へのスタンダードを提案し続ける責務を果たしはじめているようだ。

次回、後編では世界でも稀に見る生産方式を、カリモクの工場見学を通してレポートしてみたい。