宇宙航空研究開発機構(JAXA)は7月20日、2009年12月21日にカザフスタン共和国バイコヌール宇宙基地よりソユーズ宇宙船でISSへ打ち上げられ、2010年6月2日に地球へと帰還した野口聡一宇宙飛行士の日本帰国会見を行った。
野口宇宙飛行士は、開口一番「ほぼ一年ぶりに日本に戻ってきました。宇宙にいた半年はほんとうにあっという間のできごとでした」と、久しぶりの日本に対する感慨を述べ、163日間におよぶ国際宇宙ステーション(ISS)での活動を振り返った。
野口宇宙飛行士は今回のISSへの長期滞在には、スペースシャトルではなく、ソユーズ宇宙船で赴いた。この打ち上げ時について、「スペースシャトルに比べてずいぶんゆれるな、と。感覚としては、大型バスと小型トラックくらい違うといったところ。ただ、打ち上げ時の高度変化とかはシャトルよりも分かりやすく、あっという間に無重力になったという感じがある」と説明、5年ぶりに見たISSについては、「5年前に比べて、ずいぶん大きくなったな」という感想を受けたとした。
野口宇宙飛行士は、長期滞在中、各種実験などの定められたスケジュールのほか、Twitterなどによる地上への情報発信も行ってきた。これについては、「美しい地球を撮りたいというのがそもそもで、ちょうど1月ころからISSの回線が強化され、その回線応用の1つとして撮ったものを地上に送ることができるようになった」とその背景を説明。Twitterに画像を掲載するようになったことについては、「はじめはあれほど写真を掲載するつもりはなかった」としながら、「宇宙に居る間の余暇の1つとして写真を撮っていく中で、それまで美しいということを知らなかった場所が多く見えてきて、そういった場所を地上の人たちにも"こんなにきれいな風景が地球上にあるんだ"ということを知ってもらいたくなったため」とし、「しかも、それは日本人が日本人の目を通して、美しいと思った景色を届けられたということが、日本人がISSに参加した1つの意味になったのでは、と思っている」とした。
また、地球を上空から見た景色は、決して美しいものだけではなかったことにも言及。「オーロラのような、地上と上空から観測して多角的に研究するといったことだけでなく、原油流失や森林火災、大地震などを長期的に人間の目で観測できるのは非常に役に立つ。人間が見ることで、その場で機械では気づかない、ほんの少しの変化を感じて、そこにカメラを向けることができる。人間の目は驚くほど良く見ている。カメラでは8mmの魚眼レンズから800mmまで活用したが、人間の目はそれを超えてさまざまなものを認識することができる。レンズはそれを通して撮ったものといった状態」とした。
さらに、「そういった災害画像を撮影して、それをお届けするのは、ベースにそこにいる人への共感があるから。そうした心がなければ、それは観測衛星で撮影した画像データと同じ。宮崎県の写真を送ったことも、そういう心配があってのこと。そこに居る人たちに、何かしたいという想いがあったから行った。共感という心のキャッチボールというのはアナログではあるけど、そういったものが重要だと感じている」と付け加えた。
加えて、そうした美しい情景ということについて、「宇宙に行くと、美しさの観点が変わってくる」ことを指摘。「1つ例を上げると、ソユーズで地上に降りてきて、それまで下に見えていた空の風景が、上に雲と青い空を見えたとき、我々人類は大気の海の底にいることを感じた。ISSから眺めていると、地球が美しいのは海が美しいからと思っていたが、改めて地上に降りてみると、実は大気そのものが美しかったことに気づかされた」とし、美しさというものを多角的に見ることが重要で、宇宙にいったことで、それを多角的に見れるようになり、これまでと違った美しさを感じられるようになったのでは、とかけがえのない地球の美しさを強調した。
今後は、まだ、どうするかは白紙のままとしているが、野口宇宙飛行士がスペースシャトルで宇宙に上がってから、ISSに長期滞在するまでに5年間で日本人が宇宙に行く回数も飛躍的に増えたことを指摘。「職業宇宙飛行士は、人類の次のステップ。つまりは不自由のない長期滞在に向けたハードルを下げるための研究を行うための存在になると思う」としたほか、宇宙での科学研究活動について、「環境やエネルギー関連の研究も増えてきている。JAXAとしても、そうした方向に向かないといけないかな、と思うが、日本全体が技術立国として、技術を得意な分野として生き残る、その切り口の1つが宇宙になれば良いかな」と思っているとし、自分の知識などを生かせる分野があれば、そうしたところで活動していくのもありとの見方を示した。