プリンタの省エネ化を突き詰めて行くにあたって、富士ゼロックスでは長らく標準技術とされてきた部分の革新にも取り組んだ。前回はそのうちの1つ、待機電力の削減を紹介した。今回は、従来の設計常識を見直すレベルの改善で、大きな省エネを実現している別の技術を紹介する。

フリーベルトニップフューザーのヒートローラー周辺の大幅改善で省エネを実現

省電力に向けたもうひとつの大きな取り組みは、トナー定着時に必要となる「熱」に関する部分だった。レーザープリンタでは、トナーを紙に定着させるために熱を必要とする。高温と圧力によって定着させるため、ヒートローラーが十分暖まるまでは印刷ができず、また、熱を産むために大量の電力も必要としていた。富士ゼロックスは、長年フリーベルトニップフューザー技術で、小型・低価格・省エネを実現してきたが、さらなる省電力化を低価格なプリンタで実現するため、技術確立された部品にもメスを入れた。暖まりやすい高効率ハロゲンランプ(従来比15%アップ)の搭載や、熱効率を向上させるためのヒートローラーの更なる薄肉化(従来比25%薄肉)などによって、短時間でヒートローラーが暖まり、小さな電力で、かつ素早く印刷できるように改善したのだ。

更なる薄肉化が図られたヒートローラー(左)。右が従来機のもの。写真では分かりづらいが、円筒形の部分(金属コア)とオレンジ部(弾性層)が従来機に比べ、約25%薄く、低熱容量化を実現

「一度確立した技術には、なかなか手をつけられないのが普通です。しかし、今回の取り組みでは必要だと判断しました」と、商品開発本部 第三商品開発部 Technical Program Managerである杉村直人氏は説明する。ローラーを単純に薄くすると、紙を挟みこんでいる圧力パッドとの間で紙がうまく保持されず、ヒートローラーから剥離しづらくなったり、紙にしわが寄ってしまったりする。そうした問題を解決しながら、トナーと薄肉化ロールの定着接触面積を十分確保したことで、トナーの定着性とランプ点灯時間短縮を両立させ、省電力化を実現したのだ。

新しいハロゲンランプを説明する、商品開発本部 第三商品開発部 Technical Program Manager 杉村直人氏

ハロゲンランプも、2本同時に点灯させ1,000W以上の大電力で使われるのが当たり前だった中で、フィラメントと封入ガスの変更で高効率化し、1本点灯で、かつ印刷物の大きさに合わせて2本を使い分けることで、ランプの電力も低減し消費電力をより少なくしている。
「A4縦やはがき印刷はショート用、A4横などはロング用が点灯します。ロング用はそのままでは横幅が収まらないため、プラグ部に工夫しました」と杉村氏は語る。

また、こうした省電力化したユニットでも十分な印刷が行われるよう、低融点トナー「EA-Eco」を同社プリンタとして初めて採用した。エコトナーというと色の再現性が気になるところだが、再現できる色域には十分な広さがあり、繊細な色表現が要求される食べ物の写真でもきちんと再現できている。印刷物を見ると「省エネモデルだから」という妥協は感じられない。

新しいトナーカートリッジは、非常にコンパクトになっている

使いやすい機能と小型化のために統合チップを開発

商品開発本部 第三商品開発部 Technical Program Manager 武井健一氏

もうひとつ、省エネのために実施されたのが、ASICとCPUを統合した一体型チップとしてのSoC(System on a Chip)の開発だ。複数ASICの統合やメモリの統合によって、メイン基板の大幅な小型化を実現した。これは従来の基盤設計では目標とする本体サイズに収まらないことから開発に着手したのだが、これらの取り組みの過程で、省エネモード時の応答性の改善も行った。これによって、省エネでありながら応答性が良いというビジネス要求に応えられる製品ができあがった。
「使いづらい省エネは、現場で使われません。それでは意味がない。使いやすい省エネモデルを作らなければならないと考え、さまざまなチャレンジをしました」と富士ゼロックス 商品開発本部 第三商品開発部 Technical Program Managerの武井健一氏は語る。

「DocuPrint C3350」の基板

新たに開発したSoC