アドビの期間限定ギャラリー「station 5」にて、個人アニメを制作するクリエイターを招いたイベント「インタラ塾(特別編)」が開催された。イベントには初音ミクのPVを個人で制作したTripshots氏が登場した。

初音ミクのPVを「3ds Max」と「After Effects」で作ったTripshots氏

インタラ塾(特別編)に池ヶ谷愛氏に続いて登場したのは、主に3DCGで『初音ミク』のキャラクターPVを作り、ニコニコ動画で公開しているTripshots氏。本業も映像クリエイターである彼が本格的に活動を開始したのは2008年。当時はまだ3DCGで初音ミクの映像を作っている人はほとんどいなかったとのこと。Tripshots氏が初音ミクと出会ったのは、偶然見たヤフーニュース。「これはいったいなんだろう?」と興味を持ったのがきっかけだと語る。Tripshots氏は元々音楽も作成していたので、実際にツールにも触れて、音声合成にも挑戦する。

Tripshots氏はそのころ、本業とは真逆の「クライアントがいない作品」を作りたいと考えていた。そこで、3DCGツール「3ds Max」を使い、2008年に『anger』という作品をニコニコ動画で発表。この作品はわずか2ヵ月で楽曲と映像を完成させた。

3DCGの初音ミクが登場する『anger』PV。Tripshots氏によるデフォルメが味

Tripshots氏は「個人の作品制作には、利点も欠点もある」と語る。Tripshots氏が挙げた利点は、「フリーダムで自己満足できる」、「お金や他人が関与しないので気が楽」、「なんでもできる」というものだった。反対に欠点として挙げたのは、「本職があるので時間が足りない」、「表現について自問自答が続く」、「好きな作業なので寝食を忘れて没頭してしまい、次の日の仕事に影響を及ぼす」などだった。

個人制作といっても、ニコニコ動画などで作品を発表する場合は大勢のユーザーがいるので、偶発的にコラボレーションが発生することもあると言う。Tripshots氏の場合は、5人のクリエイターとコラボを行ったことがあるそうだ。この現象についてTripshots氏は、「初音ミクというキャラクターはボーカロイドを基軸としたユーザー同士のつながりが盛んで、コラボが活発的に行われている」と話す。そして、「今日視聴者のユーザーが、明日はクリエイターになる可能性も十分に考えられる」と、ニコニコ動画の現状を分析した。

5名のクリエイターと共作した『CleaningSwitch』のPV

Tripshots氏が作る3DCGの初音ミクは、2009年に発表した『Nebula』のPVでバージョン2に進化する。この初音ミクは、以前よりも大人っぽい雰囲気になった。そして、Nebulaの作品は評判となり、「Vocaloid」の発売元であるクリプトンのレーベル「KarenT」から販売されることとなった。

『Nebula』PV。ギター以外はすべてTripshots氏が担当

モデリングデータを刷新し、大人っぽい顔つきになった初音ミク

Tripshots氏の作品では、光のエフェクトはすべて「After Effects」で加えられている

また、Tripshots氏は自然派生的に行なわれたコラボレーションの一例として、金星探査機「あかつき」の署名プロジェクトを紹介。これは、署名を集めて「あかつき」に初音ミクを描いたプレートを乗せようという企画。もちろん誰からも出資を受けておらず、みんなが「なにか楽しそうだ」という気持ちだけで動いたプロジェクトだと言う。企画直後に応援サイトができあがり、Tripshots氏はこのプロジェクトで応援動画を制作した。結果として、3枚のプレートを、探査機に乗せることができた。

勝手に応援PVを制作した

トークショウの最後にTripshots氏は、自身の作品の作り方を紹介した。個人で作る場合は効率化を重視。使用するツールは3DCGの「3ds Max」と、アドビの「Premiere」と「After Effects」。レンダリングの回数を減らすために、被写界深度やグロウ系のエフェクトは「After Effects」を使っているそうだ。こうすることにより、楽曲と映像のタイミングを合わせる作業を行ないやすくなる。「ひとりで作業をしているので、リソースをどこに割くかが重要。僕はキャラクターの動きや表情に重きをおく」とノウハウを語る。

最近ではレンダラーに「Mental-ray」を採用。肌や衣装の質感が大幅にリアルになったと言う

トークの最後にTripshots氏は、「当然次回作も予定しているけど、基本的には好きなことしかやりません」と断言した。多くのファンが待っているので、ぜひいままで以上に「フリーダム」な作品を期待したい。

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