世界でも最大級の学術データベース
引用索引や特許データベース、分析ツール、研究リソースなど、科学上の発見や技術革新につながる情報や意思決定支援ツールを提供するThomson Reuters。日本でも、「論文の引用動向からみる日本の研究機関ランキング」を発表するなど、自社の保有する学術情報を活用した情報を研究者や大学関係者、官公庁に向けて提供を行っている。同社のExective Vice President,Scientific&Scholarly Research,Healthcare&ScienceであるKeith MacGregor氏に、こうした学術情報を活用することがどういった意味を持つこととなるのか話を伺った。
Thomson Reutersの学術情報ソリューションビジネスユニットを統括するExective Vice President,Scientific&Scholarly,Healthcare&ScienceであるKeith MacGregor氏 |
同氏が所属するのは肩書きのとおり、ヘルスケアとサイエンスに関する学術情報ソリューションビジネスユニットで、同氏はその統括責任者となる。同ビジネスユニットが提供しているソリューションの1つに学術文献・引用索引データベース「Web of Science」というものがあるが、これは1900年代から現在までの科学・学術研究情報をデータベース化したもので「ハードサイエンス、ソフトサイエンスをはじめ、人文科学や社会科学などあらゆる学術情報を持つ、マルチにさまざまな学術分野をつなぐことが可能な世界でも最大級のデータベース」と胸を張る。
これまでに登録された論文情報は約9億件、年間で約170万件のあらゆる分野の論文が登録されている。また、単に論文タイトルだけでなく、その論文が引用した元の論文は何か、発表者はどこの誰か、どういった分野の論文か、などの情報もデータベースとして内包しており、そうした情報を元に、同社ではさまざまなレポートを作成している。その中の1つに「論文の引用動向からみる日本の研究機関ランキング」があるが、これについては、「過去10年の論文引用をベースとしたもので、論文数や引用数などをすべての国内研究機関を対象としてはじき出したもの」であり、物理や化学などの分野ごとで見ており、それぞれの分野でどの大学が強いのかを客観的に見ることができるようになっている。
科学分野で進む海外とのコラボレーション
こうしたデータを保有する「Web of Science」について同氏は、Research & Discoveryのためのもので、第1に研究者のためのコミュニティ形成を目的としていると語る。こうした情報を活用することで、現在、研究者が対象とする(人文や社会科学なども含めたあらゆる)分野で、何が起きているのかの見極めができるようになるほか、過去の論文についても検索が可能となる。対象としているのは大学の教授陣や学生、研究者などがメインとなっており、全世界4500の研究機関が対象とする研究分野で今、何がホットな話題なのかを知るために活用している。
このデータベースに登録される論文は、どの学術誌に掲載されたものでも良いと言うわけではない。「世界では年間7万5000誌もの学術誌が発行されていると言われているが、我々はその内、より重要であると思われる、いわゆるトップクラスの学術論文誌1万1000誌を選別、それに掲載されている論文からデータを取得している」としており、より高いレベルの学術誌に掲載された論文を対象としている。
同氏は、「今後、研究の分野でも、世界規模でのコラボレーションが重要になってくる。そうした意味では、どの研究者とともに研究を行いたいか、ということなどを見極めるための一助になる」とこうしたデータベース活用の意義を語る。確かに、市況が回復傾向にあると言えども、研究分野に対する資金調達はより厳しい状況に向かいつつある。しかし、「そうした状況でも研究者はどこからか資金を調達しなければ、研究を進めることができなくなる。そうしたプレッシャーは日増しに高まっており、研究者側もより資金を得やすい研究を行う必要があるということを認識しなければならない」ということをかんがみれば、研究開発というものを1人で囲って行うのではなく、「世界規模のコミュニティを活用し、非常にグローバルな取り組みとして進めていかなければならない」ということを強調する。
携帯電話のガラパゴス化などに象徴されるように、日本は独自の道を進んでいるような話が取りざたされているが、研究結果などに関しては、「むしろ良く進んでいる。特に免疫学や薬理学/毒物学などは各国との共同プロジェクトとが進んでいる」と、科学分野では海外との協調が進んでいるとしている。中でもこの10年を見ると日本は中国とのコラボレーションが増加しており、「中国が日本のキーコラボレータになってきている。また、ほかのアジア地域や欧州などのトップクラスの研究機関との連携も増えてきている」と、海外のトップクラスの研究者との連携が増えつつあるようだ。