デジタルハリウッドは、デジタルハリウッド東京本校にて、「劇場アニメのいばら道」と題し、劇場版アニメ『いばらの王-King of Thorn-』の片山一良監督とサンライズ・内田健二社長によるトークショーを行った。

原作へのリスペクトと映像へのこだわり

片山監督

内田社長が原作を読んだ際、その世界に引き込まれたことが、劇場版アニメ化のきっかけになったという「いばらの王」。依頼を受けた片山監督は当時のことについて「原作を読んで、これをもし2時間の映像に収めるとしたら大変だろうな、と思っていたときに、お話をいただきました。制作の大変さは予想できましたが、オリジナルに近い形で2時間の劇場版アニメを監督できる機会は珍しく、価値があることなのでお引き受けしました」と語った。

また劇場版のプロット制作においては、原作者の岩原氏と密にコミュニケーションを取り、「最低限のリスペクトはなくさないよう気をつけたので、原作者の名前をつける意味のある作品になったと思います。また、いくら自分が面白いと思っても周りが納得しなければアイデアとして意味がありませんので、スタッフや内田さんをいかに説得するかに注力しました」という。

(C)YUJI IWAHARA/PUBLISHED BY ENTERBRAIN, INC./Team IBARA

さらに、この世界観の表現においてストーリーと両輪の存在となる"映像表現"。手描きの作画技術と3DCG技術のシームレスな融合が、本作の目玉のひとつにもなっている。それを実現させたのが、劇場版アニメ『スチームボーイ』やオリジナルビデオアニメ『FREEDOM』を手掛けたサンライズ・荻窪スタジオのメンバーだ。1,800という膨大なカット数が表しているように、動きへのこだわりは、時にCGアニメーター泣かせの作業になった。「例えば、過去の作品だとPCで計算できない銃のスリングの動きなどは、作業量が膨大になるからと見過ごされてきました。でも新しいアニメを作ったということを示したいのなら、そういう目立たない部分にもこだわるべきだと思ったんです。また本作では、技術面でもロジック面でも10年後に見ても古びて見えない表現になるよう心掛けました。スタッフには、"これが成功すれば若いクリエイターにも胸を晴れるぞ"とハッパをかけ続けました(笑)」

監督曰く、主人公・かすみの設定も、作画側からすれば難しいキャラクターだったのだという。「立体の顔に立体のメガネがのっていますよね。顔を回すと顔とメガネの角度がズレるから、動画だとどうしても歪みやすくなってしまうんです。少しエッジがずれただけで間抜けにもなってしまいますから」

左から片山監督、内田社長

サンライズの方向性に見る、アニメ業界の今

サンライズ・内田社長

本トークショーでは、アニメ業界の動向についても触れられた。その際「サンライズが今、劇場版アニメに力を入れているのはなぜか」という問いに対し、内田社長は「アニメ業界が成熟してきたという背景があります。戦後劇場でアニメを上映していた東映動画時代から、60年の間に、60年代には『鉄腕アトム』などの子ども向け作品、80年代には『ガンダム』などのコアファン向け作品、そしてジブリ作品のようなマス向け作品が生まれました。アニメの幅が広がった中で、本能的に、さらに先へ行きたいと考えたんだと思います。デジタル化による配給や興業の自由度も上がりましたし、これまでの層に当てはまらないアニメを作りたいという気持ち、そして映画への情熱が現れているのかもしれません」

最近では世界同時公開も増えた劇場版アニメ。海外展開を進める上で、国による認識の違いを感じたということも明かされた。「例えば『ビッグ・オー』は、上映後、アメリカのカトゥーン関係者の要望で続編の制作が始まりましたが、彼らの捉え方は独特でした。また本作には双子の姉妹が出てきますが、かすみだけがメガネをかけていますよね。このメガネも海外では作品に出た瞬間にある種の記号になるんです。実際に、彼女のようなメガネキャラやガンダムのアムロのように縮れた赤毛のキャラは主人公には絶対ならないと言われたりしましたよ。赤毛はコメディアンの記号だ、などとも言われましたね」

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クリエイターをめざす学生たちに

トークショーの最後に、片山監督と内田社長はクリエイターを目指す学生に対し、それぞれ以下のように助言した。

「私は物語と映像では訓練方法が全然違うと思っているので、クリエイターを目指すならば、まず本を読んで想像力を養ってほしいと思います。予告編ひとつでも、作るだけでなく見た人がどう感じるかまで考えられる、そんな、いい意味での妄想力がある人が強いと思います」(片山監督)

「もしこの世界でやっていきたいと思うなら、とにかく生き残ることが大事。特に自分が秀才タイプだと思う人は、裾野を広くしておいた方がいいですね。作品をたくさん見たりセンスの違う人と経験を積んだりと、いろんな事に挑戦してください」(内田社長)

新人時代、押井守氏からもらった「その時々で自分が最も面白いと思ったものを書くことが大切」との助言を、今も大事にしているという片山監督。「何かを面白いと思い込んで作れなければ、人は説得できないってことなんです」と続けたその一言には、制作のすべてに流れる想いが表れていた。