アドビ システムズは表参道にオープンしているギャラリー「station 5」にて、「Photoshop」の歴史を振り返る「Photoshop 20周年記念セミナー」を開催した。セミナーでは、1990年2月19日に発売されたPhotoshopの20年間の歴史が語られた。なお、セミナーの講師はアドビシステムズ 栃谷宗央氏が担当。2時間半に渡りPhotoshopの歴史が語られたこのセミナーを、数回に渡り徹底レポートする。

栃谷氏は「このセミナーの趣旨はノスタルジーです。懐かしさをみなさんと共有したい。アドビとしてはできるだけ最新版を使ってほしいが、今日だけは少し振り返って懐かしい思いをしましょう」とセミナーの冒頭で語った。

司会進行はアドビシステムズ 栃谷宗央氏。平日開催にも関わらず、会場は満員

「Photoshop 1.0」はフロッピーディスク3枚組みのアプリケーションだった

日本一の「Photoshop」マスターが特別ゲストとして登場

栃谷氏は、Photoshopが誕生した背景から紹介した。開発を行なったのは、当時学生だったThomas KnollとJohn Knollというふたりの兄弟。兄のThomasは現在もアドビに勤務しており、弟のJohnは映画のVFXで有名な「ILM」のエンジニアとのこと。Photoshopが発売されたのは1990年だが、その原型はThomasが1987年に完成させている。しかし、当時はまだグレースケールが表示されるだけのシンプルなツールだったという。そして1988年、そのプログラムを改良した「Ver 0.87」が、スキャナー(バーニースキャン社)のバンドルソフトとして初めて世に出た。

セミナーには、特別ゲストとして、遠藤悦郎氏がSkypeを使って海外から参加。遠藤悦郎氏はPhotoshopの開発にも関わっていて、「Photoshop AtoZ」シリーズの著者としても有名な人物。

これがPhotoshopの父こと、Knoll兄弟。左が兄で右が弟

初期「PhotoShop」は「S」が大文字表記だった

1990年に発売された「Photoshop 1.0」

遠藤氏は「自分でもよく持ってたなぁと関心する……」と前置きしつつ、「Photoshop 1.0(英語版)」と「Photoshop 1.07(日本語版)」を起動させた。ちなみに、使用PCはMacの「Tiger」。初代Photoshopは、当時としては珍しいフルカラーを扱えるソフト。リリースしたばかりのころは、ソフトの価値をわかる人が少なかったそうだ。画期的だったのは、近似色を自動的に選択してくれる「自動選択ツール」。また、「スタンプツール」は印刷所が高額の作業費で請け負っていた「電線消し」の仕事を、誰にでも簡単にできるようにしたと言う。

このころのPhotoshopはレイヤーもなければアンドゥーも1回だけ。遠藤氏は昔よく行なっていた合成の方法を実際にデモンストレーションしてみせた。しかしデモの最中にマウス操作を誤り、範囲選択がはずれるトラブルが発生。遠藤氏はいつものクセでアンドゥーを行なおうとするものの、1回しかできない。現在では考えられない非力なPhotoshopの一面を見ることができた。

また、当時のPhotoshopは、たった2MBのメモリー上で動作していた。OSにも仮想記憶を実装していない時代なのに、Photoshopは独自の仮想記憶プログラムでディスクキャッシュを行なっていたそうだ。

ネット経由で海外から送られてきた、「Photoshop 1.0」の映像

レイヤー機能がないため、合成を行なうのは至難の業。遠藤氏の神業で、「フローティング選択範囲」機能を駆使して南京錠を組み合わせた

CMYK表示が可能なPhotoshop 2.0の登場

「Photoshop 2.0」では、CMYKカラーを表示可能になった。前バージョンでは各版ずつしか表示できなかったが、2.0では合成してカラー原稿を確認できる。しかし遠藤氏は、これよりも重宝された機能として挙げたのは、「作業終了をビープ音で知らせる」というもの。当時はフィルターをかけると1分程度待たされることが多く、その間にコーヒーが飲めたそうだ。2.5になるとWindows版が登場。これによってほぼすべてのコードを書き直し、ファイルフォーマットの「PSD」も同時に誕生した。機能面の変化としては、画像補整時に「トーンカーブ」や「カラー補正」などのバリエーションが行なえるようになった。そして、合成時に乗算や彩度、比較などの機能も追加された。遠藤氏が「当時流行した」と紹介したのは、いまでも有名なフィルター「逆光」だ。このフィルターはアニメーションなどで妖精を飛ばすシーンなどに使うために開発され、そのままツールに実装されたそうだ。

遠藤氏が「このころ世界でもっとも顔に落書きされた少女」と紹介したのは、Photoshopに添付されていたサンプル画像

環境設定の最下段に「作業終了をビープ音で知らせる」の項目があった

続報では、「Photoshop 3.0」以降の歴史を徹底紹介。