物質・材料研究機構(NIMS)ナノ計測センターは、米国ミシガン工科大学および情報通信研究機構(NICT)と共同で、人間の脳に似たプロセスを持つ「進化回路(evolutionary circuit)」を実現したことを明らかにした。
今回発表された研究は、有機分子層において、情報処理を行う回路が人間の脳神経(ニューロン)のように自己進化するプロセスを創製したというもので、これにより今までよりもさらに複雑な問題を解く可能性が出てきた。
同プロセスを用いて作られる分子プロセッサを用いることで、一度に300ビットまでのパラレル処理が可能で、従来のスーパーコンピュータを超す大規模並列演算処理が可能となる。また、有機分子層の自己組織力により、既存のコンピュータにはない自己修復性を有しており、ある神経回路(ニューロン)が失われた場合、別の回路がその機能を引き継ぐことが可能だ。
今回の技術を用いることで、従来のCMOSに基づく進化回路では6~7個の選択であったものを、有機分子層における単一テンプレートで、1,024個の進化回路の選択を実現した。
同進化回路は、1955年にフォン・ノイマン(Johann Ludwig von Neumann)氏により提案された「セルオートマトン(Cellular Automaton)」モデルに基づくもので、物理的にこのモデルを分子層において実現したものは初めてとなる。
ブレインライクな(脳のような)分子回路の概念。aの画像がDDQ(2,3-dichloro-5,6-dicyano-p-benzoquinone,2,3-ジクロロ-5,6-ジシアノ-p-ベンゾキノン)分子。bの画像が分子アセンブリの走査トンネル顕微鏡イメージ(上)と対応する分子回路(下)。cの画像の○は分子、数字は連結するワイヤ数を表す |
また、この分子層には知性が認められ、これによりアルベルト・クレディ(Alberto Credi)氏の「IQを持つ単分子層」の予測(2008年)を実現したこととなる。
研究グループは、これらの特徴を証明するために、熱の拡散とガン細胞の進展という2つの自然現象のシミュレーションを実施しており、将来的には既存のスーパーコンピュータのプロセッサパワーを超えるような、特に自然災害や病気の発生のような不良設定問題を解くことが可能になると期待されるほか、同時並列性による人工知能の性能向上、ロボットの知性的な環境への対応などが可能になるとしている。