Microsoftの推進するOfficeアプリケーションのXML標準フォーマット「Office Open XML (OOXML)」が、ISO/IEC標準から外れる危機に瀕している。ISOでOOXML標準化のとりまとめを行っているAlex Brown氏が、来月5月にリリース予定の「Microsoft Office 2010」のプレリリース版でサポートされるOOXMLがISO標準に準拠していないことを指摘し、OOXMLがISO標準を外れるだけでなく、将来的にOOXMLプロジェクトの崩壊やMicrosoftの評価に傷をもたらす結果になると警告している。

この話題はBrown氏が自身のBlogで3月31日に投稿し、問題提起したものだ。本題に入る前に、少しだけOOXML標準化の歴史を振り返る。OOXMLプロジェクトはもともと、Microsoft Officeの文書ファイルをXML形式で書き換える「Microsoft Office XML」プロジェクトから派生したもので、その一部はOffice 2003で採用されている。後に業界標準を目指してOOXMLへと改名され、2006年12月に「ECMA-376」の名称でEcma InternationalによってECMA標準として規格化された。このOOXMLはその後、ISO/IEC (International Organization for Standardization / International Electrotechnical Commission)のJoint Technical Committee 1 (JTC1)の中で標準化議論が進んだが、結果的に2007年に投票によって標準化を拒否されている。その後、Ballot Resolution Meeting (BRM)の中でOOXMLをISO標準として改修するための議論が進められ、最終的にこの改良版OOXMLが2008年4月に「ISO/IEC 29500」の名称で標準化された。

だが結果として、OOXMLには「Strict (厳密な)」と「Transitional (暫定的な)」という2つの仕様が存在することとなった。TransitionalはMicrosoftが最初にISOに提案したOOXML仕様で、ECMA-376がベースになっている。だがこのECMA-376は2007年にJTC1で拒絶されており、その後BRMでStrictとして厳格化された仕様がISO標準になった。Microsoftによれば、StrictはTransitionalのサブセットにあたり、一部の仕様が抜け落ちた形になっているという。

Brown氏は、間もなくリリースされるOffice 2010でサポートされるOOXMLがもし「Transitional」のままだった場合、結果として「Strict」の仕様を決めたISOの顔に泥を塗ることになり、大きな問題になるとしている。OOXMLがISO標準として認められているのはあくまで「Strict」のほうであり、「Transitional」ではないからだ。またXML分野のプロフェッショナルであるTim Bray氏の予言を引用して、Microsoftのこうした行動が意図的なものである可能性も示唆している。Bray氏はOOXMLがISO標準と認定された2008年4月に「Microsoftがほしいのは"ISO標準"というPR材料だけであり、以後の行動にはいっさい関知してこない」と宣伝文句を欲する同社の行動を揶揄しており、Brown氏はこのままではBray氏の予言が現実のものになると考えているようだ。

こうした批判を受け、米MicrosoftのOffice互換性チームで標準化プロフェッショナルのリードを務めるDoug Mahugh氏が自身のBlogにおいて、Brown氏の懸念に対するコメントと、現状のステータス、そしてMicrosoftの将来計画について説明している。それによれば、Office 2010におけるOOXMLサポートは、Transitionalが読み書きの両サポート、Strictが読み込みのみのサポートにとどまっているという。また、なぜMicrosoftがTransitionalのサポートにこだわるかといえば、いわゆる"レガシー"なOfficeファイルフォーマットの仕様を受け継ぐための仕掛けにあるという。Strictではこれら仕様が完全に削げ落ちており、レガシーサポートの面で問題が発生するからだ。一方でBRMが規定するStrictサポートも尊重しており、次世代Officeにあたる「Office 15」ではStrict仕様のフルサポートを必ず行うと表明する。「決してMicrosoftの暴走ではない」というのがMahugh氏の主張となる。だがOffice 2010がISO標準に準拠していないことは確かであり、今後どのようにMicrosoftが周囲との溝を埋めていくのかに注目が集まることになる。