プライスウォーターハウスクーパース ジャパンは4月7日、3月31日に施行された「企業内容等の開示に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令」に関する説明会を行った。同令では、有価証券報告書上で、「コーポレートガバナンス体制の開示」、「役員報酬の開示」、「株式保有状況の開示」、「(株主総会における)議決権行使結果の開示」を求めている。
同令において特に注目を集めているのは、1億円以上の報酬を受け取っている役員は氏名や報酬額を開示しなければならない点だ。
また同令は3月31日に施行されたが、その定める開示義務は2010年3月期決算(2009年4月から2010年3月)から適用しなければならない点も、企業にとってネックとなる。
初めに、人事・チェンジマネジメント パートナーを務める若林豊氏が、役員報酬規制を巡る背景について説明を行った。
同氏は、「今回の改正内閣府令は長期的かつ世界的なガバナンス強化の潮流の中で出てきたもの。昨今の不景気により、米国では高額な役員報酬に批判が集まった。当社では、内閣の動きは先の金融サミットを受けてのものと見ている」と話した。
「日本企業の役員は米国企業の役員ほど役員報酬をもらっていないが、方針や制度が曖昧な企業が少なくない。しかし、優秀な人材をグローバルで確保するためにも、ガバナンスの仕組みを構築し、開示していくべき」と同氏。
また同氏によると、昨今M&Aが活発化しているが、買収先の海外子会社のほうが買収元の企業よりも役員報酬が高いという現象が起きているという。「日本企業だけ役員報酬が低いというガラパゴス化してはいけない。グローバルなガバナンスの体制に合わせていく必要がある」と、同氏は説明した。
人事・チェンジマネジメント ディレクターを務める白井正人氏からは、改正府令に関する具体的な説明がなされた。
改正府令施行に伴い、企業は「コーポレートガバナンス体制」、「役員区分、種類別による役員報酬の開示」、「役員報酬の個別開示」、「報酬額・算定方法の決定に関する方針」の開示について準備を行わなければならない。
同氏は、「現状、方針や制度が未整備の場合、2010年3月期においては可能な範囲で示したうえ、次期に向けて制度の整備に取り組む必要がある」と説明した。
「実務面から見た場合、ガバナンス体制と報酬額・算定方法の決定に関する方針の整備が難しいであろう」と、同氏は指摘した。
「ガバナンス体制については役員会や役員報酬に関する考え方や体系を詳細に記載することが望ましいと考えられる。また、報酬額・算定方法の決定に関する方針については、"過去の報酬決定の慣行・考え方を整理・明文化して記載"または"ガナバンス強化の流れを汲んで方針を新たに決定"すべき」
同社が実施した役員報酬に関する調査によると、回答した85社のうち、役員報酬に関するポリシーを策定している企業は46%であり、そのうち公開している企業は21%だったという。つまり、策定していない企業と策定しているけれども公開していない企業のいずれも整備が必要というわけだ。
また、上場企業の社長のうち連結報酬総額が1億円を超えている割合は8.3%であり、上場企業の取締役のうち1億円を超えている割合は1.4%だった。
役員報酬の個別開示に伴い、役員の報酬を引き下げたり、役員から外したりといった"ネガティブな対応"を行う企業も見られるとのことだが、それは「日本企業にとってよいことではない」と若林氏は述べた。
同氏は、「米国や英国といったグローバルの流れを見て、役員報酬を引き上げながら、業績指標を明らかにするなど、投資家や市場に対して説明責任を果たすことが、これからの日本企業にとっての課題となる」と説明した。