富士通研究所は3月31日、同社が研究開発を行ってきた2009年度の研究成果と2010年度の研究方針を示す「研究開発戦略説明会」を開催、今後どういった分野に注力していくのかの見方を示した。

富士通研究所 代表取締役社長の村野和雄氏(2010年4月1日付けで代表取締役会長に就任)

同社代表取締役社長の村野和雄氏(2010年4月1日付けで代表取締役会長に就任)は、富士通研究所のあり方を「21世紀に入って研究所と言えどもビジネスモデルの確立が求められるようになったほか、CSRとしての環境配慮なども求められるようになってきた。こうした状況を踏まえて、"すべての中心に人がいる(ヒューマンセントリック)"ということを意識し、その周囲に存在するさまざまな機器をネットワークでつなげることで、その先に新たなビジネス領域が見えてくる。そこに新たな価値を提供していくことが今後の10年に向けた経営ビジョン」と述べる。

ICTは、メインフレーム時代の一部の専門家が活用するものから、ブロードバンド化やワイヤレス化で誰でもどこでも使えるという状況へと変化してきた。しかし、「「それは技術中心の考え方で、そこには人間というものが介在していない。我々は人間を中心としたICTを通じて、実世界に新たな価値を創出することで、ICTの新たなパラダイムシフトを目指す」(同)という方向付けを行うことで、""ヒューマンセントリック"なネットワーク社会の実現を目指すとする。

ICTのパラダイムシフトとヒューマンセントリックなネットワーク社会のイメージ図

その実現にはさまざまな方法が考えられるが、一例としてさまざまな作業の現場にセンサや携帯端末を配置することで、その場でどんな人がどのようなことを行っているのか、および周辺環境はどのような状況かの理解を進める。そうして集まった多種多様なデータはクラウドを介して処理され、新たな知識やサービスへと昇華、個人やその場その場に適した細やかなサービスの誕生へと結び付けようというのが、同社の語る「ヒューマンセントリックコンピュータ」の大枠の概念である。

こうした方向での研究開発に向け、国内外の研究機関などとの連携はもちろんのこと、自身の研究開発体制も見直しが図られた。2010年度の強化課題は「富士通グループ全社の将来を見据えた戦略的研究開発への取り組み」「ビジネスセグメント事業戦略と研究戦略の整合」「事業のポートフォリオ変化に応じたリソースシフト」ということで、研究開発のフレームワークを、「全社最適化のグローバル視点の下、従来ボトムアップ型で研究者がやるべきと思った研究を中心に研究を行ってきたが、トップダウン重視の研究テーマ設定とそれに基づいた戦略的な研究投資を目指し、それぞれの研究テーマの位置づけを明確にするために3分類に区分けを行った」(同)。

国内外の大学や研究期間と連携してさまざまな研究を推進してきた

この3分類は、中長期で富士通グループに絶対必要となる将来技術、コアな将来技術となる研究開発を「全社骨太テーマ」、従来の多くの研究テーマが含まれ、ビジネスセグメントがコミットした事業化を目指す短中期のコア事業の研究開発を「事業戦略テーマ」、現在の事業に特定できない技術の芽、未知領域といった新技術の研究開発を「シーズ指向テーマ」と分けられる。このうち、全社骨太テーマと事業戦略テーマはトップダウン型のアプローチが用いられる分野で、シーズ指向テーマが研究者の知見(ボトムアップ型)でまったく見えていない未知の領域の研究を行っていくという方針となっている。

戦略的R&Dテーマそれぞれの位置づけ

この3分野の中で、今後の核となる全社骨太テーマについては、さらに人を中心に携帯端末とクラウドの融合によるICTを活用したサービスの提供を目指すためのコアとなるコンセプトやアーキテクチャの研究開発を行う「ヒューマンセントリックコンピューティング」、従来の業務範囲を超えて、社会という観点から社会そのものあり方を考えるソリューションの研究開発を行う「インテリジェントソサエティ」、複数のクラウドを連携させ、1つのサービスとしての提供に向けた研究開発を行う「クラウドフュージョン」、GaNによる低消費電力化や光インターコネクト技術による光ネットワーク化、電力効率の最適化を図った各種設備などを含めたトータルソリューションとしてのデータセンター構築を目指す「次世代グリーンデータセンター」の4つのテーマに分けられるという。

2010年度の研究開発ロードマップ