日本屈指の進学校である筑波大学附属駒場中高等学校、その筑駒生の考案したITソリューションが世界に挑む──。学生向けITコンペティション「Imagine Cup」の日本大会が9日、東京大学で開催され、筑駒"PAKEN"がポーランド決勝大会への出場を決めた。

優勝した筑駒PAKENメンバー。写真左より、石村脩氏(高2)、永野泰爾氏(高2)、関川柊氏(高1)、金井仁弘氏(中3)。一次予選を通過するまで、パ研(筑波大学附属駒場 中高パーソナルコンピュータ研究部)顧問の市川先生には大会に参加していることも、勝手に先生をメンター登録したことも知らせなかったとか

マイクロソフトが主催するImagine Cupは、各国予選を突破した学生が集結するITコンペティション。2010年の開催地、ポーランド大会ソフトウェアデザイン部門への出場切符を手にしたのは、中高生から成る若き精鋭PAKEN(筑波大付属駒場中高)だった。ITを活用して国連ミレニアム開発目標(※)を解決するという大会テーマに対し、独自のアルゴリズムを鍵にした余剰物資分配システム「Bazzaruino(バザルイーノ)」を提案。革新性やビジネス実現性などが見られる審査で、「非常に斬新なアイディア」と高評価を受け、優勝をもぎとった。

決勝ラウンドに進出した他3チームは、AI3(同志社大学)が準優勝、3位NIS Lab#(同志社大学)、4位Growing(福島高専)という結果となった。優勝したPAKENは、7月3日から開催されるポーランド大会に出場する。

※国連ミレニアム宣言の開発目標

1.極度の貧困と飢餓の撲滅 2.普遍的な初等教育の達成 3.ジェンダーの平等の推進と女性の地位向上 4.幼児死亡率の引き下げ 5.妊産婦の健康状態の改善 6.HIV/エイズ、マラリア、その他の疾病の蔓延防止 7.環境の持続可能性の確保 8.開発のためのグローバル・パートナーシップ

国際ITコンペティション『Imagine Cup 2010』レポート

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PAKENのアルゴリズムが支援団体を救う

NPOなどによる貧困地域への物資援助。その活動で負担となる輸送コストを、航空機の乗客が参加する輸送システムによって低減する──それがPAKENの提案した余剰物資分配システム「Bazzaruino」だ。注目したのは、航空機の無料預け荷物の重量に余裕があるという実態。いわゆる"スーツケースの隙間"に支援物資を詰めた乗客を増やし、輸送の分散処理と低コスト化を実現するという。

旅客機に搭乗する前に、Web上でBazzaruinoにサインイン、到着空港や荷物重量などを登録すると、独自の輸送最適化アルゴリズムによって支援団体の要望にも基づいた輸送計画が算出される。その後、所定の場所で専用バッグに納められた物資を受け取り、スーツケースに括りつけるなどして搭乗、到着空港で引き渡す。これがBazzaruinoの全体的な流れとなる。運搬者はボランティアによる参加を見込んでいる。

劇は筑駒の武器! と語るPAKEN。プレゼンではBazzaruinoの利用シーンを実演した。行き先を尋ねる係員に「ある世界大会がポーランドで開催されまして、私それに参加することになっちゃったんですよ」。そのとおりに

Imagine Cupはマイクロソフトの技術を利用することが課題となっているが、WebクライアントにはSilverlight、認証処理にはWindows Live IDを利用。輸送最適化アルゴリズムによる輸送計画の算出には膨大な量の計算が必要となり、その解決にはWindows Azureが持つクラウンドコンピューティングのパワーが利用できるとした。

PAKENが構想するBazzaruinoの姿は、援助物資の輸送に関わる各機関を統合的に支援するプラットフォーム。審査委員からは、この壮大な輸送最適化システムの課題として、荷物に対する法律的な問題や運搬者の信頼性担保などが指摘された。一方、技術的にクリアできる課題もあるとし、世界大会までの改善が求められた。チームリーダーの石村脩氏も「世界大会までには優勝できるソフトウェアを作りたい」と今後のブラッシュアップに向けて意気込みを力強く語った。なお、PAKENは日本大会優勝後、Twitterアカウント @Bazzaruino を作成している。

審査員の質問に答えるPAKEN。チーム内での役割分担は、ID認証まわりを関川氏、UIやプレゼン設計を金井氏、サーバ設計を石村氏、アルゴリズムの考案と劇を長野氏が担当。2009年エジプト大会の開催中に挑戦へ動き始めた

完成度の高いプレゼンを見せる

Imagine Cup 2010 日本大会決勝の模様は、Twitter(ハッシュタグ「imaginecupj」)やUSTREAMでも中継され、多くの観衆の注目を浴びた。惜しくも世界大会を逃した3チームも高い評価を受けた。

NIS Lab#は、2年連続で世界大会へ進出した同志社大学チームの継承者。初等教育の教科書不足を解消するという前年チームのソリューションに、教員育成プラットフォームを盛り込んだ「EduCycle」を考案した。世界各国の教員間で授業ノウハウを共有し、途上国における授業の質を高める方法を示した。

同じく教育問題に取り組んだのがGrowing。教員間での情報共有ソリューション「TERAKOYA Net」は、江戸時代の"寺子屋"が庶民教育で果たした役割、とりわけ識字率の向上に貢献した点に注目して開発した。利用者間での教材や情報共有のほか、書き取りの練習機能を提供し、途上国における識字率を高めるための授業運営をサポートしていくという。

AI3は、水不足の地域が抱える課題へのアプローチとして、ハードウェアを含めたソリューション「NEREID(NEtwork RElational Intelligent Device)」を発表した。水汲みという労働に消費される膨大な時間を問題視。水道管や井戸などのインフラ整備ではなく、自律動作するボール状の水汲み端末を投入し、少しずつ多くの水を自動的に集める仕組みを考えた。

Imagine Cup 2010 組み込み開発部門の日本代表を選出する決勝大会は、3月30日に開催される予定となっている。

Imagine Cup 2010 ソフトウェアデザイン部門 日本大会決勝結果

順位 チーム 作品
優勝 筑波大学付属駒場中高等学校「PAKEN」 石村脩・関川柊・永野泰爾・金井仁弘(メンター企業:ワンビ) 余剰物資分配システム「Bazzaruino」(選択テーマ:極度の貧困と飢餓の撲滅)
2位 同志社大学「AI3」 今井祐介・芦沢卓也・石川勇樹・今入康友(メンター企業:ジースポート) 水汲み作業自動化システム「NEREID」(選択テーマ:極度の貧困と飢餓の撲滅)
3位 同志社大学「NIS Lab#」 今入庸介・伴卓磨・中下和則・肥前和輝(メンター企業:マジックチューブ) 仮想学校・教科書プラットフォーム「EduCycle」(選択テーマ:普遍的な初等教育の達成)
4位 福島工業高等専門学校「Growing」 赤塚篤・佐藤貴啓・松島弘・矢吹明紀(メンター企業:ネットディメンション) 識字率向上システム「TERAKOYA Net」(選択テーマ:普遍的な初等教育の達成)