理化学研究所(理研)と科学技術振興機構(JST)は、出力が従来の7倍と大きな深紫外線発光ダイオード(深紫外線LED)を共同開発したと発表した。従来よりも小さく、寿命が長い深紫外線光源の実現を期待できる研究成果である。

深紫外線(波長220nm~350nm)は、バクテリアの殺菌や汚染物質の分解などに使われている。また高密度光ディスク用光源や白色LED用光源などへの応用が期待されている。ただし現状の深紫外線はガス・ランプあるいはガス・レーザーを光源としており、外形寸法が大きい、光源の寿命が短いといった短所がある。

LEDまたは半導体レーザー(LD)といった半導体素子の深紫外線発光デバイスを実現できれば、光源の外形寸法が小さくなり、また、光源の寿命が伸びる。さらに、光源のコストを低減できると期待されている。

半導体深紫外線光源の応用分野

しかしこれまで研究されてきた深紫外線LEDは、発光効率が非常に低いという課題を抱えていた。そのため、試作された深紫外線LEDの出力は2.2mWときわめて小さな水準に留まっていた。

深紫外線LEDは、おおまかにはn型層、発光層、p型層で構成される。発光層にキャリア(電子と正孔)を集めて再結合させ、エネルギーを光として外部に取り出す仕組みである。ここで問題なのは、LEDのn型領域に注入した電子の多くが発光層に貯まらずに、p型領域に漏れ出てしまうことだ。通常のLEDやLDなどでは発光層に電子が貯まるような構造を作るのだが、深紫外線LEDで有力視されている化合物半導体材料ではこれまで、電子をうまくブロックする構造を作れないでいた。このため発光効率が低かった。

そこで理研とJSTの共同研究グループは、「多重量子障壁(MQB:Multi-Quantum Barrier)」と呼ぶ構造を導入した。MQB構造は既存のブロック層に比べると、ブロックできる電子のエネルギーが2倍と高い。既存のブロック層を通過していた電子でも、MQB構造を通過できない。この結果、発光層に貯まる電子の割合が著しく増加し、発光効率が高まった。電子注入効率(注入電流に対する発光層に注入される電子の割合)は既存の深紫外線LEDが10%~30%であったのに対し、理研とJSTの共同研究グループが考案し、試作したMQB構造では電子注入効率が80%と大きく改善した。

試作した深紫外線LEDの構造

試作したLEDでは、波長が250nmで出力が15mWの光を室温連続動作で取り出すことができている。外部量子効率(投入電力に対する光出力の割合)は1.5%。既存の深紫外線LEDの外部量子効率は0.4%と低かった。

試作した深紫外線LEDの光スペクトル(左)と光出力(中央)、外部量子効率(右)

深紫外線LEDの化合物半導体材料は窒化アルミニウムガリウム(AlGaN)系である。基板はサファイア。LEDの表面側にn型電極とp型電極を設け、基板裏面から光を取り出す。現在は光の取り出し効率が6%~8%と低い。今後はMQW構造を改良するとともに、取り出し効率の改善に取り組むとしている。