日立システムアンドサービス、日立情報システムズ、日立ソフトウェアエンジニアリングは、各社社員を対象に協働し、「ソーシャル・イノベーター育成講座~いまこそ、私たちの手で社会変革を」 と題するCSRをテーマとした講演イベントをシリーズで開催している。

第1回は、昨年12月に特定非営利活動法人「TABLE FOR TWO International」 の理事・事務局長である社会起業家の小暮真久氏が講演を行った。

東京外国語大学 地域文化研究科 平和構築紛争予防学講座教授 伊勢崎賢治氏

第2回の講演のスピーカーを務めたのは、東京外国語大学地域文化研究科平和構築紛争予防学講座の教授を努める伊勢崎賢治氏だ。同氏はNGO、国連職員として、現地で東ティモールなどの紛争解決にあたってきた"実務家"だ。TBSのサンデーモーニングなどのテレビ番組にも出演経験があるので、ご存じの方もいるだろう。

そんな同氏が、「平和のために私たちができること」というテーマの下、講演を行った。内紛を目の当たりにしてきた同氏は平和をどのようにとらえているのか? 以下、同氏の講演を紹介しよう。

地球上の全生物にとっての平和はありえない

伊勢崎氏は初めに、「平和とは構築しようとすると乱れるもの」と話した。ある人にとっての平和が必ずしも別な人にとっては平和とは限らないというわけだ。そして平和には、「乱す者は排除する」という思想が含まれるため、地球上、すべての生物にとっての平和はありえないという。

世界を股にかけて平和のために尽力してきた同氏にとっても、平和は非常に難しいものだということだ。そして、「平和を構築すべきか、私もよくわからない」と述べた。

ダイヤモンドの産地・シエラレオネの内紛

同氏は自身が内紛の解決にあたったアフリカの小国・シエラレオネでの経験について語り始めた。シエラレオネと聞いて、どのような国かわかる人は少ないだろう。同国は映画「ブラッド・ダイヤモンド」の舞台となった国で、ダイヤモンドの原産国である。「シエラレオネは幼児の死亡率が高く、国連ランキングで言うところの"世界最貧国"だ」と同氏。

シエラレオネでは内紛が10年続き、死亡した市民の数は50万人に上る。同国で内紛が発生した経緯を同氏は説明してくれた。

同国では、現地の弁護士や医師などと多国籍企業との間で汚職が多数起こり、その結果国家の財政が破綻した。その汚職文化は末端の役人にまで及び、一般市民までが搾取され始めた。こうした流れから、法と秩序が崩壊して無政府状態になり、罪が罰せられなくなり、国が乱れていった。

子どもは核兵器よりも怖い

こうした状況にあるシエラレオネに、伊勢崎氏はNGOから派遣された。同氏はさまざまな活動を行ったが、最も力を入れていたのは「子どもを殺さない」ことだったという。「子どもの個人情報を管理し、ワクチンを打ち、母親を教育し、学校を構築することで、子どもたちを守り育てた」

内戦に巻き込まれる子どもの運命は2通りあるそうだ。1つは殺されてしまう子どもであり、もう1つは殺す側の少年兵である。シエラレオネの内戦には少年兵がたくさん参加している。同氏は小さな体に大きな銃をかついだ少年兵の写真を見せてくれた。

同氏は「少年兵は大人の兵よりも残虐だった」と話す。「戦いにおいて子どもは最終兵器。核兵器より怖いと言っても過言ではない」

1回目はNGOの職員として同国を訪れたが、その後、国連から同国に派遣され、和平にまで漕ぎ着ける。同氏の働きは目覚ましく、外国人にもかかわらず、同国の市議会議員まで務めた。ただし、紛争解決までの道のりは厳しく、同氏の配下で働いていた人たちからも100人の犠牲者が出ている。

アフリカの内紛と聞くと、「部族間の統一」や「宗教」が原因と思う人が多いかもしれないが、同国の場合は世代間の対立だったという。

戦争と紛争は儲かる

伊勢崎氏はまとめとして、「戦争と紛争は儲かる」と話し始めた。なぜなら、戦争と紛争は破壊行為であるため、武器産業が隆盛し、破壊が終わればそこから創造が起こるからだ。国をゼロから立ち上げる時、真っ先に手をつけるべきは軍隊と警察だと同氏はいう。「決して、学校や診療所から作ることはない」

また、建設業、日用品などの輸入が始まり、規制がないため華僑や印僑が大いに儲けるという。ちなみに、規制が始まると華僑や印僑は一斉に逃げて、新たな土地で同じことを繰り広げるそうだ。さらには、人道援助まで「儲けの手段」となりうるという。

こうしたバックグラウンドを持つ戦争と紛争は「予防できるのか?」、「予防すべきなのか?」、「皆さんで考えていただきたい」と、同氏は疑問を投げかけて、講演を終えた。冒頭の言葉通り、平和に関する答えは出なかった。

日立グループ社員の出した答えは?

伊勢崎氏の講演のあとは、「平和のために私たちができること」というテーマの下、講演に参加した3社の社員によるワークショップが行われた。各グループでは、次のような意見がまとめられた。

  • 紛争から利益を得ない企業を目指す
  • 私たちは戦争に関わるあらゆる活動をビジネスの対象としません
  • 企業が紛争を予防するために、利益を社会に還元し、安心して暮らせる世の中を創ると同時に、倫理観・価値観を育む努力を継続的に行う

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自身の生命を危機にさらしながら、紛争解決にあたってきた伊勢崎氏の言葉は淡々としていながらも重みがあった。同氏の講演を聞いて、「平和とは何か?」という質問の答えは永遠に出ないかもしれないが、答えを求めることはやめてはいけない、答えを求めることが平和につながるのではないかと感じた。

次回が最終回となる「ソーシャル・イノベーター育成講座」は「福祉」をテーマに行うそうだ。第1回、第2回とその分野の一線で活躍している方々がスピーカーとして招かれており、第3回のスピーカーを誰が務めるのか興味深い。