アドビ社の技術の中で、今もっともクリエイティブ環境と密接に関わっているのが「PDF」(Portable Document Format)だろう。印刷物を作る上では校正や出力用ファイルとして活用されているし、ビジネスの現場でも情報をやり取りするコミュニケーションツールとして利用されている。

今回は、とくに「印刷用フォーマット」としてのPDFファイルに着目し、最新情報と合わせて解説していこう。


Adobe PDFの特徴とは?

まず、PDFファイルとは何かについて解説しよう。PDFファイルとはPortable Document Formatの略で、初めて登場したのは1993年のこと。ただし、当時のPDFファイルでは日本語が扱えなかった。日本語が扱えるPDFが登場したのは、1996年のAdobe Acrobat 3.0の登場と同時である。

その後、Adobe AcrobatのバージョンアップとともにPDFファイルのバージョンも進化し、最新のバージョンはAdobe Acrobat 9で生成されるPDF 1.7 Adobe Extension Level 3。このPDFファイルのバージョンは、PDF生成時の条件として必ず選択する項目となる。

PDFファイルのベースになっているのはAdobe PostScript技術だが、両者はさまざまな部分で異なる機能を備えている。たとえば、PDFファイルにはフォントを埋め込めるがPostScriptファイルにはフォントを埋め込めない。また、しおりやリンク、注釈といった機能もPDFファイルならではの機能である。そしてさらに、Adobe Creative Suiteの登場でAdobe InDesignやAdobe Illustatorでも多く使われるようになった透明機能もPostScriptファイルでは対応していない。

PDFファイルの生成方法は、大きく分けて2種類。Adobe Distillerを経由するか、アプリケーションの「PDF書き出し」機能を使うかのいずれかである。

注意しなければならないのは、Adobe DistillerでのPDF生成では、一度PostScriptファイルを書き出すということ。前述の通りPostScriptファイルは透明機能に対応していないため、Distillerを経由するとドロップシャドウなどの透明効果は分割されてしまう。そのため、最新のクリエイティブ環境では、アプリケーションの「PDF書き出し」機能を使うことがもっとも高品位なPDFファイルを書き出せるということになる。


印刷用ファイルとしてのPDF

DTPの高解像度出力に使用されるファイルといえば、これまではPostScriptファイルが当たり前だった。というより、ユーザー自身はそれを意識することなく、プリンタドライバでPostScriptファイルを生成してRIPに送信し、RIP側でラスターデータ化して高解像度出力していたと言うべきだろう。

PDFファイルの場合は、一度アプリケーションからPDFファイルを書き出し、それをRIPに送信する。PDFファイルの書き出しは、入稿側が行うのが一般的で、PDFファイルの整合性も合わせて担うことになる。そのため、PDFファイル入稿の黎明期には入稿側と出力側でファイル生成の設定に関するトラブルが相次ぎ、フォントや解像度、圧縮率といった印刷品質を左右する事柄についての規格が早急に求められることとなった。そこで登場したのが「PDF/X-1a」である。

PDF/X-1aは、印刷用途を目的としたファイル形式のため、最新のPDFファイルに含まれるようなセキュリティ機能や音声・動画ファイルの添付機能といったものは含まれていない。扱えるカラーモードはCMYK+特色のみ、フォントはすべて埋め込み、透明効果は不許可(分割)と、その仕様はPDF 1.4をベースにしたオーソドックスなものだ。その代わり、PDF/X-1aとしてプリフライトされたファイルは印刷用データとして"お墨付き"を得た信頼性の高いフォーマットとして扱える。

続けて、RGBカラーモードを許容したPDF/X-3が登場。ここまでは、あくまでも安全に印刷できることを目的に絞って策定された規格だったため、最新のAdobe Creative Suiteの機能に準じているわけではない。


PDF/X-4とAdobe PDF Print Engineの登場

PDF/X-1aおよびPDF/X-3は、プロセスカラー印刷において安全な入稿ファイルであることは間違いない。しかし、ドロップシャドウを付けた文字が太ってしまったり、隣り合わせる色同士の分割がうまくいっていないなど、とくに透明効果に関してはスペックが間に合わない状態になってきた。

PDF/X-4は、透明効果やレイヤーを扱えるようになった新しい電子入稿用フォーマットだ。そのため、生成方法もアプリケーションからの「PDF書き出し」機能に限定される。ただ、RGBカラーデータもそのまま渡すことが可能となり、RIP側のカラーマネージメント機能を使用したRGB→CMYK変換が出来るようになっため、他のフォーマットに比べて高品位な印刷結果が期待できる。

ただし、PDF/X-4を正しく出力するためにはRIP側もそれに合わせて進化しなければならない。そこで2006年にアドビ社から発表されたのが「Adobe PDF Print Engine」である。

Adobe PDF Print Engineは、透明効果やグラデーションメッシュなどの複雑なデザインオブジェクトを含むPDFファイルの出力に適したプリントソフトウェア技術で、最大のポイントは最終のRIPにファイルを渡すまで一切の変換処理を行わないことにある。すなわち、Adobe PDF Print Engineがさまざまなデバイスを管理し、デバイスの解像度やプリントオプションに合わせてRIP処理を行うということ。透明効果も最終処理まで分割しない。いわば、完全なデバイスインディペンデント処理を実現したのがAdobe PDF Print Engineである。

現在、Adobe PDF Print EngineはCTP用ワークフローRIPや高速オンデマンド印刷機用RIP、インクジェットプルーフ用RIPなどに搭載されている。PDFファイルをより高速で正確に処理するAdobe PDF Print Engineは、次世代の出力環境に欠かせない技術になるだろう。