どんなに優れたITシステムができても、それが正しく利用されなければ業務効率は一向に上がらない。いかにしてITシステムを日常業務に"定着"させるか、この点は開発プロジェクトの成否を左右する最後のポイントと言ってよいだろう。

そこで本稿では、システム定着化を成功させるためのプロセスについて、SAPのコンサルタントに解説してもらう。システム運用上の問題が露見した際に、問題の核心を見抜いて効果的な対策を施す方法について詳しく提示しているので、情報システム部門の皆さんには大いに参考にしていただけるはずだ。

迷走する定着化のための取組み

「ユーザーからシステムへの入力負荷が高いという意見があったので、改善すべく、わかりやすいマニュアルを作成しています」――定着化課題解決のためのプロジェクトを担当している情報システム部門に、実施している取り組みについて聞いたところ、このようなコメントをいただいたことがありました。

導入効果を最大化するため、システム推進の皆さんは、業務パフォーマンス向上のためのさまざまな取り組みを行っているはずです。『わかりやすいマニュアルの作成』も、業務を効率的に実施するための有効な施策でしょう。しかしながら、冒頭のコメントについては、何か違和感がありませんか。

まず第1に、「わかりやすいマニュアルを作成すること」が、「システムへの入力負荷が高い」という課題の解決に、どの程度効果があるのかというのが明確ではありません。

ユーザーがシステムへの入力負荷が高いと感じる場合には、画面設計に問題がある場合もあれば、システムからのレスポンス、運用ルールの複雑さ、ユーザーの習熟状況や、ユーザーサポートによる問題など、各社の状況によりさまざまな要因が考えられます。すでにユーザーへ提供されているドキュメントは十分わかりやすいマニュアルであったにもかかわらず、改善の取り組みとしてマニュアルを改訂しても、業務効率の向上への効果は期待できないでしょう。

第2に、「ユーザーからシステムへの入力負荷が高い」という意見があったということですが、これは本当にそういえるのでしょうか。

同じ距離であっても、いつもの通勤路に比べ、初めて通る道の方が長く感じるのと同様に、なじみのないシステムは実際に掛かった時間よりも操作に時間が掛かるように思えます。確かに、自社運用に合わせて作り込んだ画面に比べ、汎用的なシステムは操作性が落ちることもありますが、業務にどれだけのインパクトを与えているかは、「時間が長く掛かっている気がする」という主観だけでは捉えることができません。

第3に、入力負荷が高いとコメントをしているのは、一部の人なのでしょうか。それとも入力を行うすべての人なのでしょうか。

声の大きな方の意見が、一般的な意見と捉えられがちです。効果の高い施策を実施するためには、その影響度合いを考慮する必要があります。

解決のためのアプローチ

このように文章にしてみると、冒頭のコメントに対しての違和感も当たり前と思われる方も多いでしょう。しかし多くの企業で同じような状況が発生しており、頑張っているのに効果が出ないという声を聞きます。

では、どのようにすると、業務パフォーマンスを向上させることができるのでしょうか。

以下では、課題が発生してからの取り組みだけでなく、素早く課題を認識するところから始まる、下図のようなプロアクティブアプローチを例に見ていきましょう。

図1: User Experience Management プロアクティブアプローチ