デザインの要素は、コカ·コーラの持つ資産から

ブランディングの核としての存在しているBrand Identity & Design Standards。これら詳細な基準をデザインに落とし込むクリエイティビティこそが重要であるとのことだが、より具体的な内容に話しを移したい。では、Brand Identity & Design Standardsをデザインとしてビジュアル化する際のポイントとなるのは何であるのだろうか。

「答えは2つあります。ひとつは、いかにブランドをしっかりと見せるか。以前は、ロゴの上に何かを重ねたり、逆さに配置したりするデザインもありました。しかし、今はしっかりと明確に見せています。シンプルにそのブランドのメッセージが伝わらなければ意味がないですしね。シンボリックに物事を伝えるだけではなく、“理解してもらえる”デザインを意図しています。2つ目は、タッチポイントごとの役割や機能を、それぞれ理解した上でデザインをすること。ポスター、POP、パッケージ(缶やボトル)の形状、自動販売機、それぞれにそれぞれの役割や機能があり、部分を見るのではなく全体を考えた上でデザインをすることです」

ブランドの要素はすべてコカ·コーラの持つ資産から形を見つけ出して作られたものである、と語るHIDE。現在行っている基準の策定作業は、さまざまな情報を整えることに加えて、スペンサリアンスクリプト(※Coca-Colaロゴのこと)やダイナミックリボンなど、誰の記憶にも残るアイコン的な要素のクラシカルな良さを改めて取り戻す作業でもあるという。

デザインの歴史からもみてもコンツアーボトル(左)、スペンサリアンスクリプト(右)ともに価値の高い「資産」

「コカ·コーラブランドの要素となるものには、すべてに意味付けがあるんです。たとえば、誰もが目にしているダイナミックリボンは、コカ·コーラのコンツアーボトルを2本重ねた時にできる隙間をデザインとして仕上げたもの。ディスクロゴは瓶のキャップを元にしています。コンツァーボトルは、唯一立体で商標が取れたオブジェクトですし。それらはすべてブランド価値を構成する資産なので、独自のものと自信を持って言える要素ばかりです。だからこそ、しっかりと見せなければいけません」

瓶のキャップを元にした「ディスクロゴ」


ブランディングは「意志」によって成り立つ

ところで、ブランディングにまつわるデザインの規定については、多くの企業が採用しているはずである。そのなかで、なぜコカ·コーラのブランディングはブレがなく、世界各国で受け入れられるものとして認識されるのだろうか。「コカ·コーラブランドの独自性とは?」と率直に質問を投げかけたところ、HIDEはきっぱりと「ありません」と答えた。

「コカ·コーラは世界各国で愛されているグローバルブランドです。すでにブランドは成立していると考えても間違いではありません。しかし、これだけ大きな企業であるにも関わらず、全世界で統一したビジュアルを作っていこうという熱意と意識がそこにはありますし、実際にその事業を成し遂げています。ブランディングやデザインはそれらの価値を支える『意志』で成り立っています。あえていうならば、デザインが飾り付けではなく、会社の“意志”として認識されているところに、独自性があるのかもしれません」

今そこにあるコカ·コーラがいつも通りのコカ·コーラとして映るのも、緻密なブランディングに支えられているからこそである。印象的だったのは、デザイン、そしてブランディングは「意志」によって成り立つ、というHIDEの言葉。いつまでも、末永く愛されているコカ·コーラのブランド価値は、それらを支え、より進化させようという“意志”によって進化を遂げ、それがユーザーの喜びや驚きとなって今日も世界中に伝わっていくのだろう。

HIDE(松永秀隆)


日本コカ·コーラ株式会社
マーケティング本部 クリエイティブエクセレンス
クリエイティブディレクター

1980年よりデザイナーとして福岡、東京、ロンドンにて勤務。88年、ランドーアソシエーツ入社、13年間勤務。国際的なプロジェクトにおけるデザインやクリエイティブソリューションの開発をリードする。2002年、エンタープライズIGジャパン入社。リージョナルエグゼクティブクリエイティブディレクターとして多数のクライアントに対しクリエイティブサービスを提供するとともに、アジア全体を統括。2007年、日本コカ·コーラ入社。日本のみならず、アジア太平洋地域のデザインを統括。