120年以上の歴史を誇り、いまもなお愛され続ける飲料「コカ·コーラ」。言葉や地域はもとより、文化や民族、世代をも問わず誰もが親しみを持つ不思議な“魔力”の持ち主でもある。

世界有数のグローバルブランドが、そのパワーと魅力を長年にわたり築き上げ、保ち続けてる背景に存在していたのは、「デザイン」への厚い信頼と「ブランディング」の再構築とも取れる動向。“魔力”とは、確固たるデザイン/ブランディングの「意志」から生み出された結果であったのだ。

五感全体に訴える-「Brand Identity & Design Standards」

今回話しを伺ったのは、日本コカ·コーラでアジア・パシフィック圏のグラフィックやビジュアルデザインを統括するクリエイティブディレクターの松永秀隆氏(以下:HIDE)。これまでにも多くのグローバルブランドでブランディングを統括された人物である。

そのHIDEが日本コカ·コーラに入社するきっかけとなったひとつのエピソードがある。

日本コカ·コーラ クリエイティブディレクターのHIDE(松永秀隆氏)

「入社前、コカ·コーラの方に呼ばれて『今のコカ·コーラのブランディングをどう思うか?』と聞かれたことがあったんです。当時は統一感がなく、見え方もバラバラな印象があったので、それを素直に話したら、後日入社することが決まって(笑)」

2007年に入社したHIDEが真っ先に手掛けたのが、わかりやすく明快なビジュアルに整理し直すことだったという。本インタビューの前に、編集部ではVIS(Visual Identity System)という、コカ·コーラがグローバル主導でビジュアル使用のガイドラインをまとめたペーパーを目にしていたので、その詳細を伺おうとしたところ、すでにそのガイドラインは使われていないとの答えが戻ってきた。

「当時のVISは、文字通りまさにビジュアルという要素から入って組み立てられたものでした。しかしながらそれは、本当の意味でのコカ·コーラのブランディングとして捉えた場合、十分なものではないんです。例えば、コンツアーボトルを持った時に感じる手触り。缶を開けた時、あるいは炭酸の泡がはじけた時に発する音。カラメル色の液体の色、そして飲料としては最も重要な要素である香りや味。本当の意味でのブランディングとは、単に視覚に訴えかけるビジュアルのみを考えるのではなく、五感に訴えかけるもの全てを考慮に入れなければならない。どれかひとつでも欠けてしまえば、そのブランドが持っている価値を正確に体現したとは言えずに、すべてが崩れてしまいます。そこで、コカ·コーラでは、グローバルのCreative Excellenceチームの主導により、ビジュアルデザインのみならずブランド価値を構成する全ての要素を踏まえて規定したガイドラインを、新たにBrand Identity & Design Standardsとしてまとめていったのです」

ブランディングの礎となる数えきれないほどの"基準"が盛り込まれた「Brand Identity & Design Standards」。今回、特別に資料として公開頂いた

これは、コカ·コーラのブランドをいかに明確に提示するかについてを、デザインのみならず様々な側面を考慮にいれて規定し、“基準として”まとめられたもの。POP、ポスター、ボトル、ビルボード...etcから、将来的には音楽などに至るまで、各メディアにおける消費者とのタッチポイントにおいて強力かつ効果的なコミュニケーションを図るために考えられた基準である。ロゴの使用規定やパッケージ・ボトルの形状、タイポグラフィ、中にはグラスや氷の配置、レタッチの仕方など事細かく決められているという。アトランタ、ヨーロッパ、そしてアジア・太平洋地域を代表してHIDEが所属する東京という世界3カ所のCreative Excellenceチームが、現在も議論を通じて策定中の基準集だ。