ワイズスタッフ 代表取締役社長 田澤由利氏

新型インフルエンザの流行で、企業の危機管理対策としてますます需要が高まりつつあるテレワーク。テレワーカーとは、国土交通省の定義では「ITを活用して、場所や時間にとらわれない柔軟な働き方を週8時間以上する人」となっているが、大きく分けて自営型と雇用型の2つの場合だけでも実態はかなり異なる。政府の統計によると、2008年のテレワーカー人口は15.2%と推計したが、その中には出張先や営業先で仕事をするいわゆる"モバイルワーカー"も含まれているのだ。こうした現状において、テレワーク人口の普及という観点で今最も課題となっているのは、雇用型のテレワークだ。そんな中、"ネットオフィス"の概念のもと、雇用型のテレワークを実践する企業経営の第一人者として、厚生労働省のテレワーク政策の委員なども務める、ワイズスタッフの代表取締役 田澤由利氏が10月19日、財団法人日本生産性本部主催の「働き方の多様性や事業継続に機能する在宅勤務の導入・実践セミナー」において、「事業継続への準備・活用とテレワークマネジメントの実践」と題した講演を行った。

「テレワークの波はIT企業から一般企業へ流れている」と語る田澤氏。「テレワークの始まりは、最初はIT・ネットワーク関連企業が中心だった。というのも、自社のテレワーク向け商品の販売促進のためにもみずから在宅勤務制度の導入を勧めたというのがだいたいの経緯。それが2008年から2009年にかけては、企業のため、社員のためのテレワークという空気に流れが変わってきている」

一方で、雇用型テレワークの導入を試みる企業にとっては、まだまだ多くの課題を抱えているのも現状だ。企業がテレワークを導入する目的は、「社員のワークライフバランス」「人材確保」「業務効率の向上」の3つが主な柱だが、その反面、「時間管理や業務評価、社員間の不公平感をどうするか、業務効率は本当に向上するのかを試行錯誤しながら実施している」と田澤氏。こうした状況に対して田澤氏は、「チーム業務におけるテレワーク比率の考察」として、次の試算を紹介する。

「全員が毎日(週5日)テレワークを行うとした場合の業務=5人×週5日=25。これに対して、1人のみ週1でテレワークを行う場合=1人×週1日なので、テレワーク比率は1/25で4%。この程度ならチーム全体の業務の中では影響はないレベルということで、トライアルから本格導入という流れになり、全員が週2回テレワークを行うとなると、5人×週2日=10となり、テレワーク比率は10/25で40%を占めることになる。テレワークに適しているとされる仕事が全体の40%を占める業務はほとんどなく、結果として効率低下やテレワークが実施できない状態になることが予測される」

チーム業務におけるテレワークの比率

一方、こうした状況に対する1つの回答が、田澤氏が提唱する"ネットオフィス"といいう考え方だ。これはネットワーク上で運営するバーチャルなオフィスで、「家でやったほうがいい仕事を持って帰って在宅勤務する」という従来のテレワークの考え方を、発想を転換し「いつもの仕事が在宅でもできる」という思考のもと、接客/対面業務などを除いた社内業務をテレワークでも可能なほどにIT化することで実現する。田澤氏は「従来のテレワークは福利厚生的なイメージが強く、今後は会社としてメリットのある方向に進んでいくべき」と語る。

また、ネットオフィス型のテレワーク導入の進め方には、

  1. テレワーク環境の構築
  2. テレワーク社内制度の整備
  3. テレワーク業務率の向上
  4. テレワーカーの教育/育成

この4つの軸をもとに展開していくべきだという。「日本企業は、環境や制度の整備に力を入れすぎて停滞してしまう感がある。道具を売ることに集中しすぎて、特にセキュリティのシステムを導入しただけで終わって、社内制度は現状と同じというパターンが多く見られる」と田澤氏は分析。しかし、「在宅勤務はシステム以上にマネジメント、教育、コミュニケーションが大切。4つの軸をできる範囲で同時に進行すべき。たとえ企業全体で無理だとしても、一部門をネットオフィスにすればよい」と強く語る。

他方で、テレワークという新たな働き方に対する最も大きな課題としては、報酬の算出方法や人事評価システムが挙げられるだろう。会社に通勤して働くということを前提として作られた現在の労働基準法では、テレワークという就労スタイルは適用しにくい部分も多い。国に対して改正を求める声を出しつつ、今の労働基準法に反しない範囲で、企業が就業規則をより柔軟なものにしていくべき、というのが田澤氏の考えだ。すでに田澤氏が率いる会社では、テレワークに対応した新たな給与体系を試験的に導入しているといい、「従来の給与体系は、基本給+残業手当+各種手当というのが一般的。これを、基本給の部分を、時給ベースの基本給に、出勤や時間拘束、フルタイム、フルウィークといった項目で手当を加算する方式にしている」と説明した。

テレワークを導入するには、これまでの給与体系のあり方も根本から見直す必要がある

最後に田澤氏は「子育て中の女性だけが優遇されるという働き方ではいけない。結婚・出産を経験した女性に限らず、人生というのは山あり谷あり。ライフスタイルに合わせて柔軟に働き続けられることを前提に、働かせる側にもメリットがある柔軟な働き方にするというのがテレワーク導入の正しい姿」と、テレワーク普及の目指す方向性についての自らの考えを語り、講演を締めくくった。