東北大学および、千葉大学、広島大学らを中心とした研究チームは、2次元空間を移動する電子スピンの運動の新たな概念を発見したことを明らかにした。

同研究チームは、2次元非磁性体において電子スピンが偏極する現象である「ラシュバ効果」に着目。スピントロニクスデバイスの実現に不可欠である、現実の系でのラシュバ効果の理解のため、元素の特性から大きなラシュバ効果が期待でき、3回対称性(120°回転すると元の構造と同じになる)の周期的な構造を有する、ビスマスを吸着させたシリコン表面を用いて研究を行った。

研究では、角度分解光電子分光とスピン分解光電子分光の2つの実験手法と、広島大学先端物質科学研究科で開発された第一原理計算による理論的手法を用いてビスマス吸着シリコン表面での電子バンドと電子スピンを調査。

この結果、巨大なラシュバ効果が観測されたほか、「時間反転対称性」がなくともラシュバ効果が発現するということと、電子スピンの運動を理解する上で不可欠である等エネルギー面の形状が非渦構造をとりうることが判明した。時間反転対称性がなくとも原子構造の対称性に起因してラシュバ効果が発現することが可能であることと、特異なラシュバ効果により、これまで予想もされてなかった非渦構造を有する異常なラシュバ効果が発現したことで、ラシュバ効果の発現に必要不可欠であると考えられていた時間反転対称性は不要であり、ラシュバ効果による電子スピンの運動を理解するためには2次元構造の対称性の情報が必要であることが示されたこととなる。

この研究結果は、電子スピンの運動を原子構造の対称性により理解できることが普遍的な新たな量子効果であることを意味するほか、電子スピンの運動はスピンの輸送効率を決定するものであり、その理解は今後のスピントロニクスデバイスの設計に大きな方針を示すことが期待されることを意味する。

また、観測された巨大ラシュバ効果は高効率で半導体スピントロニクスデバイスへの電子スピンの注入が可能であることを意味し、これと合わせた電子スピンの運動を理解することは、例えばエネルギー消費量が通常のトランジスタの1/1000程度の低エネルギー消費ながら高移動度、高効率スピントランジスタの実現に向けた一歩となるとしている。

Γ点、M点、K点まわりの等エネルギー面(Γ点周りでは理想的なラシュバ効果が、時間反転対称性のないK点まわりでは歪んではいるが渦構造のラシュバ効果が、時間反転対称性があるM点もまわりでは非渦構造のラシュバ効果が見える)