--IFRSへの取り組みという観点から見て、現在、企業はどのような状況にあるのか?--
藤田氏: 連結グループ全体にIFRSをすでに適用できるレベルにまで到達している日本企業は少ない。現在、多くの企業で経理部の方を中心にIFRSの勉強会が開催されており、IFRS導入の影響を検討しておられる。しかし、そうした情報が経営層をはじめ、IFRSに大きく関わることになるであろう経営企画部門やIT部門などと情報共有するまでには至ってないケースが多い。実際、IT部門の方たちは独自にベンダーやコンサルティング会社にIFRSの影響について問い合わせしているケースも多い。
予算の確保や体制の構築といったことを考えると、経営層にIFRSの影響と組織的対応の必要性を理解してもらわなければならない。逆に、経営者の"鶴の一声"でプロジェクトが急に進むケースもある。まだ、IFRSへの取り組みを本格化していない企業は、経営者の理解を得て、社内で正式に認知される組織を作ることが最初の大きな関門と言える。

--取り組みを開始している企業があれば、その具体的な内容を教えてほしい--
藤田氏: IFRSと日本の会計基準の差異を把握し、その影響度を会計処理実務、業務プロセス、システム、人・組織の各側面から分析・評価するところから始めている。特に、会計処理差異の影響を把握する際、「対象範囲としてグループ会社をどこまで含めるか」、「IFRSの論点を網羅的に検討するのか」、「対象をある程度限定して行うのか」など、調査の目的に応じて決定する。業務プロセス、システムなどの実装を視野に入れた調査結果を期待するのであれば、相応の時間と作業負荷を考慮する必要がある。

--これから、IFRSに取り組む企業はどのようなことに気をつけ、何をすべきか?--
藤田氏: まずは、方針をしっかりと決めることが重要である。方針とは、IFRS対応のゴールとそこへの道筋を明らかにすることだ。IFRSの求める開示要件を充足することにフォーカスする場合もあれば、これを機にグループ経営管理の仕組みを抜本的に見直す企業もある。ただ、ボトムラインとして、企業の財務上の数字を司る経理部はその品質を担保する責任が重くなるとともに、各国のグループ拠点の経理担当とのやり取りが増えてくる。これまでより、英語をはじめとする日本語以外の言語でのコミュニケーションスキルとIFRSに関する専門スキルを有する人材を育成するニーズは高くなる。
経理部の業務は現在、四半期決算の義務化、会計コンバージェンス対応、J-SOX対応、社内プロジェクトと負荷が高くなっており、これにIFRS対応が加わり、ますます業務量が増えるというわけだ。しかし、今日の経済状況ではおいそれと人員増強することはできないだろう。そこで、ルーチン業務は出来るかぎり自動化し、グループ全体で業務やコミュニケーションを標準化するといった対策が必要となる。同時に、最も重要なのは人である。どれほど立派なシステムや基盤があっても、人がいなければ動かすことはできない。IFRS適用を見据えた、人の育成、組織基盤の強化が鍵となる。

--最後に、IFRSが企業にもたらす変革について教えてほしい--
藤田氏: IFRSは明確に投資家の視点を重視している。これまでの日本の会計基準を前提にした慣行や常識では理解しがたい部分が今後ますます顕在化してくるのではないだろうか? IFRS導入について良し悪しを問う議論が現在もあるが、資本移動のグローバル化と会計基準の世界標準化の勢いを押し戻すことは出来ない。企業の業績を測るものさしが変わることは、競争のルールが変わることと同じである。新たなルールに組織として対応し、最大のパフォーマンスを発揮できるようになるには、それ相応の時間がかかる。昨日まで売上至上主義で動いていた会社が、今日からは将来のキャッシュフロー創出に繋がる優良資産の積み増しに注力せよと言われても、現場組織は急には変われない。連結グループ全体であればなおさらだ。「全体最適」は、総論賛成・各論反対の議論の中で形式的に登場する言葉ではなく、明確な目標の下に意思決定する際にコア概念として共有されるべきものとなっている。IFRSという共通のものさしをきっかけに、グループ全体最適を目指す経営革新に繋げる可能性について、検討する絶好のタイミングではないかと思う。