「SAP WORLD TOUR 2009 - TOKYO」のブレイクアウト・セッション(分科会)では、SAPのユーザー企業であるヘルスケア/医薬品大手ジョンソン・エンド・ジョンソンと、素材大手デュポンによる講演が行われた。以下、それぞれのセッションの模様をリポートする。
ジョンソン・エンド・ジョンソンのセッションでは、メディカル カンパニーの人事総務本部・広報部でバイスプレジデントを務める福本祐士氏が「『我が信条』に基づく経営戦略」と題して講演。同社の企業理念/倫理規定である「我が信条(Our Credo)」が、同社の長期的な展望に基づく企業運営や分社分権化経営、人材育成などにどのように生かされているかについて紹介した。
ジョンソン・エンド・ジョンソンは、従業員数11万8,200人、57カ国250社の事業会社でグループを構成し、175カ国以上でビジネスを展開する。2008年の売上高は637億4,700万ドル、1932年以来76期連続で成長を続け、平均成長率は11%に達する。
売上げ構成比は、消費者向け製品(「バンド・エイド」「薬用リステリン」「ニコレット」など)が25%、医療器具/検査機器(手術/治療用医療機器、コンタクトレンズ「アキュビュー」、臨床検査機器/診断薬など)が36%、医薬品(中枢神経系、真菌症、鎮痛/麻酔、がんなどの領域)が39%。同社の事業は、消費者の生涯にわたる健康維持に常に関わるものと言える。
そんな同社の行動の規範として、顧客、社員、地域社会、株主に対するそれぞれの責任声明を記載した文書がOur Credoだ。これは、1943年当時経営者であったロバート・ウッド・ジョンソンJr.が制定したもので、同氏の「恒常的な成功は、より高尚な企業哲学を遵守していくことによってのみ可能となる。つまり、顧客への奉仕が一番に、社会とマネジメントに対する奉仕が次に、株主が最後に来ることを認識しなければならない」という言葉が原点になっている。
株主への責任を最後におくことについては、当時から批判があったと言うが、ロバート・ウッド・ジョンソンJr.氏は、「顧客、社員、地域社会への責任を果たすと、株主への責任も果たす」と答えたとされる。
もっとも、このような理念を社員間で共有し、実践し続けることは、容易なことではない。そんななかで、同社が実践しているのが、社内ディスカッション「クレドー・チャレンジミーティング」(1975年から実施)や、改善サイクルをうながすアンケート調査「クレドー・サーベイ」(1986年から)、冊子「リビング・ザ・クレドー」の発行(2003年から)、教育プログラム「グローバル・リーダーシップ・プロファイル」などだ。
たとえば、グローバル・リーダーシップ・プロファイルでは、「社員1人1人がリーダー」との発想のもとで、
- インディビジュアル・リーダー
- ピープル・リーダー
- シニア・リーダー
を設定し、それぞれに求められる行動(10個のコンピテンシー)を果たしているかを確認する。インディビジュアル・リーダーに求められる行動としては、「耳の痛い話でも常に真実を伝え、言うべきことは必ず言っている」「周囲を鼓舞し、やる気を引き出している」「人の才能や可能性を正しく評価している」「自分の失敗に責任をもって対処し、失敗から学んでいる」などがある。逆に、リーダーシップから外れた行動としては、「決断力がない。意思決定に対する責任を取りたがらない」「曖昧なことや不確実なことにうまく対処できない」「優秀な同僚が新しい分野に進んだり、新しい機会を得ることへの障害になっている」「必要な衝突を避ける」などがある。いずれも根幹となっているのは「Our Credo」の価値観を実践しているかどうかだ。
こうした価値観は、M&Aを通じて獲得した企業に対する「分社分権化」にもつながっている。同社は、グループ全社でプロセスを標準化/一元化する方法を採用せずに、「郷に入っては郷に従う」という考え方を実践してきた。実際、「従業員11万人超の企業でありながら、1事業会社の平均は500人で、各ビジネスユニットに大きな裁量権がもたされている。意思決定は基本的にローカルで行う」(福本氏)という。また、ブランドについても、ジョンソン・エンド・ジョンソンのブランドを最重視せず、個別事業会社のブランドを重視する。たとえば、コンタクトレンズ「アキュビュー」や、医療機器「エチコン」などは、ジョンソン・エンド・ジョンソンの社名は小さい。国内13の事業部では、それぞれ名刺のデザインが異なるほどだ。
「分社分権化の意義は、社員がリーダーシップを持って意思決定を行い、顧客への責任を果たしていくこと。そして、それを支えているのが、Our Credoという強力な求心力」(福本氏)ということだ。