デュポンのセッションでは、取締役 財務部長 橋本勝則氏が、「持続可能な成長戦略を支える経営管理体制、それを支える経営指標とコーポレートガバナンス」と題して講演。創立200周年を迎えた2002年に、次世代のトレンドを見据えた経営改革を行い、現在、さまざまな経営指標に基づいて、グループ経営におけるガバナンスとリスクマネジメントの確立に取り組んでいることを紹介した。
デュポンは、従業員数5万7,000人、世界70カ国で約50万製品を展開する素材メーカーだ。ブランド名こそ一般に馴染みが薄いが、ゴルフボールの外皮コーティングや、歯ブラシのブラシ部分、調理・飲料スペースを清潔に保つ人工大理石、防弾チョッキや安全手袋に使われる繊維など、生活のあらゆるシーンに同社が開発した素材が使われている。
同社が経営体制を刷新したのが2002年。1802年の創業から200周年を迎えるにあたって、事業部編成を、市場や技術に合わせて大きく変えた。具体的には、ナイロン繊維やポリエステル繊維といったそれまでの同社の基盤とも言えた事業を本体から切り離し(2年後に事業売却)、あらたな成長基盤として、農業/食品、塗料/色材技術、電子/情報技術、高機能材料、安全/防護という5つの事業部門に再編した。
「この改革は、100年単位のメガトレンドを踏まえてのもの。デュポンは、1800年から1900年までは火薬、1900年から2000年までは化学や高分子エネルギーという製品、技術の成熟に沿って成長してきた。2000年以降のトレンドは、化学、バイオテクノロジー、材料科学などにあると判断したわけだ」(橋本氏)
実際、現在の売上げ構成比は、農業/食品が29%、自動車が20%、建築/建材が11%、エレクトロニクスが9%、プラスチック/化成品が9%、テキスタイル/家具/室内備品が5%などとなっており、化学にとどまらないさまざまな事業から収益を上げる構造となっている。
そんな同社が企業理念、行動綱領として掲げるコアバリューは、「安全衛生環境」「人間尊重」「企業倫理」の3つであり、これは200年間変わっていない。橋本氏によると、かつて「品質」や「スピード」といった項目はコアバリューに入らないのかとの質問を受けたことがあったが、当時の経営者は、コアバリューは、「No Negotiable - すなわち、妥協の余地のない絶対に成し遂げなければならない、守られなければならないものだ」と回答したという。
たとえば、同社はこのコアバリューを実現するための目標として、6つのゼロ目標を立てている。安全衛生環境については、業務上/業務外のケガがゼロ、環境事故がゼロ、設備事故がゼロ、物流事故がゼロの4つ。また、人間尊重について人事上の事故がゼロ、企業倫理について企業倫理事故がゼロの計6つ。
「コアバリューは、ビジネス環境が変化し、ポートフォリオが変わっても、不変のもの。つまり、企業として"おかしいこと"はいっさいやるなということ。さまざまな国に社員がいるなかで、こうしたシンプルで当たり前のことをグループ企業全体がものさしとして共有することは、ある意味究極のリスクマネジメントとなる」(橋本氏)
2009年に掲げられた経営課題は4つあり、それぞれ、変動利益「額」の最大化、劇的な費用の削減、ゼロベースでの投資計画、運転資本の削減だが、同氏は、これもシンプルで当たり前の施策だと語る。
経営指標などは、時代とともに変化しており、現在、事業レベルでの財務コストを除いた税引後経常利益を重視していたり、正味資産の利益率をみる「RONA(Return On Net Assets)」という指標を用いたり、資金繰り管理を日数ベースで計算(売掛金残高を日数で割る)していたりする点がユニークであるとした。
ガバナンスとリスクマネジメントの取り組みとしては、業績把握の迅速化に務めていることを紹介した。同社では、翌月第2営業日に売上げデータがデータベースに入る。これは、どこの工場で製造された製品が、どこでどれだけ売れたかが記録される。そして、第6営業日には製品別の損益・バランスシートが作成される。「現在は標準的なスピードではあるが、月次決算を続けた先に四半期決算があるといったような仕組みを作ろうとしている。こうした仕組みで、グループ全体での経営判断を早めることに力を入れている」(同氏)