「ロボットをデザインする」ということ
いよいよ話は、本題のロボットデザインについて。「今のロボットには足りないことがあります。家電量販店に行ってもロボット売場はない。子どもの頃には、21世紀にはビルの1フロア全部がロボット売場になった電器屋もあるに違いないと思っていた。でもなっていない。なぜか? きっと何か足りないものがあるハズ。それは何か?」
「新しい物事を世の中に広める時に、おそらく大切なことが3つぐらいある。それは"できる"かどうか、"儲かる"かどうか、"要る"かどうか」と、ビジネスからの要求も必要になるという。
まず、"できる"かどうか。「そもそもできないモノの話をしても仕方がない。すごい未来にはできそうでも、今できないモノについては別の話」。次の"儲かる"かどうかは、「下品なことを言うな! と思われるかも知れないが実はすごく大切。作って売るたびに赤字が出るようでは続けていけない。必要以上に儲けるのはどうかと思うが、続けていくために必要なだけ稼ぐ仕組みはものすごく大切」。そして最後に、"要る"かどうか。「子どもの諸君も、新しいオモチャを買ってもらう時、お母さんに『それ、いるの?』『どういるの?』と言われて、答えられないと買ってもらえないよね? 新しいモノを手に入れる時、要るかどうかと真剣に考えるのもすごく大切なこと」これらは、どれか1つができていてもダメで、3つともバランスよくうまく回っていないといけない、と園山氏は言う。
「技術的にできていて、ビジネスモデルまで考えられていても、世の中に広がらなかったモノもいっぱいある。携帯電話のテレビ電話機能とか…。同じように、今のロボットも"本当に要るかどうか?"というところが足りないのではないか。だからロボット売場がないのでは? 要るかどうかを決めるには、"何を、誰のため(何のため)に、どうするのか"をハッキリさせないといけない」
「例えば、"夏休みの宿題を、君のために、手伝ってくれる"。これならみんな要る。でも、"夏休みの宿題を、君のために" どうするか分からなかったら? "邪魔する"かも、"もっと難しくする"かも知れない。そんなモノにはうかつに手が出せない。"何を、誰のため(何のため)に、どうするのか"、この3つともハッキリしていないと、本当に欲しい、要る、とは言えない。これをハッキリさせるのが"人との関係をハッキリさせる"ということ」
「今は、人との関係がどうもハッキリしないロボットが多いのではないか。でもこれは仕方なかった。これまではほとんどが研究所の中にいたから、まず、ちゃんと脚が動くか、転んでも壊れないか、重いモノが持てるか、ということをやってきて、人との関係はまだこれから。だから、ちゃんと考えていかないといけない」
"人との関係"がハッキリしないと、何が具合悪いのだろうかといえば、「例えば、お父さんが仕事で使える情報ロボットが欲しいと思っているのに、ピンクで"モキュ?"とか言ってくるロボットがいても、これでは真面目にお仕事する関係に見えない」
「お母さんに"食器洗いをして後片付けもする人型のロボットがいます、でも1,500万円します"と言っても、"それぐらいは自分でする、こんなの買うなら食器洗い乾燥機を5万円で買うわよ"となってしまう。なんでそれをわざわざロボットでやるのか?、研究テーマとしては重要だけど、お母さんにはいらない。人との関係が間違っているとおかしなことになる」
「"すごい"と"要る"は違う。工場見学に行って高速で正確に作業をするアームロボットを見たら、みんな"すごい!"と思う。でも、個人では要らない。ときどき見る分にはいいし興味もあるけど、2mで5tあって500万円もするものを買って部屋には置こうとは思わない。本当に"要る"と思えるのは、"自分と関係ある"と感じられること。自分の暮らしに関係あること」
「人とロボットとの正しい関係を考え、ハッキリさせることこそデザイナーの仕事で、カッコイイ形や色というのはその次。もちろんかっこいい方が良いのだけど、世の中には"格好良くなくてもいいから安い方がいい"という関係もある。人とロボットとの関係性の中で、本当にその人にとって必要な格好良さとは何か? ということを考えるのがロボットデザイナーの役割になる訳です」と、デザイナーの役割が単に格好良い絵を描くだけではないと指摘する。
「最後に、皆さんにお願いがあります。これからますます色々なロボットが出てくる。皆さんがご存知のロボットももっと進化して商品化されるかも知れないし、まだ内緒の研究もいっぱいある。そういうロボットが出てきた時、ぜひ今日話したような"人とロボットの関係"について考えて欲しい。"どういう人と、どういう関係を作るんだろう?"とか、"ああいう人とこういう関係を作ったら、もっと活躍できるのにな"とか、そういうことを思いついたら、研究している人に教えてあげてください。本当に"空飛ぶロボットがあるといいな"と思ったら、なぜそれがあるといいんだろう?と真剣に考えて欲しい。そうすると、君たちの考える未来がロボットの未来になっていく。そういう風に、これからもロボットとデザインのことを考えてくれると嬉しいです」
そう語って、園山氏はトークショーを締めくくった。夏休みのイベントということで、子ども向けのトークショーではあったが、それだけにより分かりやすく明快な語り口で氏のデザイン論が展開され、示唆に富むものだったと思う。すでに大人になったロボットファンも、ユーザーとしての意見をメーカーに伝えることで、ロボットの未来の一端を担えるかも知れない。今後発表されるロボットのニュースに対しても、"人との関係"という視点から注目し、考えてみたい。