理化学研究所(理研)は、κ型BEDT-TTF塩と呼ばれる有機分子から構成される有機モット絶縁体の薄膜単結晶を用いてFETデバイスを開発、有機FETでの相転移トランジスタの開発に成功したことを明らかにした。

これは、同FETにおける「強相関電子」の「フィリング制御型モット転移」を活用したもので、今回は低温状態下において電界効果を用いることで電子を少しずつ出し入れした際の低効率変化とホール効果の測定を行うことで、伝導電子の数と動きやすさを観測した。

これによると、有機モット絶縁体に電子を加えた場合の電気抵抗の変化は、電子を加えるほど電気抵抗が小さくなり、温度を下げるほど顕著に現れたとするほか、この電気抵抗の変化は、SiのMOS-FETにおける変化と似た傾向を示しているとする。このため、今回使用した有機モット絶縁体は、電子を出し入れしても、無機強相関物質のような複雑な挙動は示さないシンプルな物質と推定されるとしている。

電子を加えたときの抵抗率の温度変化(ゲート電圧を0Vから120Vに上げていくにしたがって、有機モット絶縁体に電子が注入される。その結果、電気が流れやすくなり抵抗が減少する。また、低温部の曲線をグラフの左側に向かって延ばして(赤線)いくと、縦軸上の一点で交わるが、これはFETそのものに極端な乱雑さがないことを示している)

また、ホール効果の測定結果からは、電子を出し入れしたときの伝導電子の数の見積もりが行われた。これにより、後から加えた電子により、それまで「粒子」として振舞っていた電子に対し、フィリング制御型モット転移の様子が観測されたとする。この様子は、すべての伝導電子が突然動き出すというモット転移の特長を捉えた測定結果としており、連続的に導電電子の波動性が変化する様子が観測されたとしている。

電子を加えたときの伝導電子密度の変化(ゲート電圧を上げていくと、電界効果により電子が注入される。実際にFET中で動いている電子の数は、後から電界効果で加えた電子の数よりもはるかに多く、粘り気のために動けなくなっていた電子が、後から加えた電子のために、突然さらさらと動き出した様子が理解できる)

なお、理研では、今回の成果について、今後モット転移の理論的理解を深めるのに重要な成果となるとするほか、銅酸化物の高温超伝導など、強相関電子に特徴的な物性の解明にも寄与すると考えられるとしている。加えて、相転移を利用したトランジスタは、高いスイッチング性能を持つことが期待できるため、新しい原理による電子デバイスの開発の可能性もあるとしている。