「DO-IT Japan」参加者が抱える障害は人それぞれに違う。マンツーマンで個人に合った指導が行われる

企業社会貢献活動の一環としてマイクロソフトが行っている「DO-IT Japan 2009」が7月29日から8月1日までの4日間開催された。

DO-IT Japanとは、障害を持つ高校生/高卒生を対象に、大学進学のための支援を行うプログラム。マイクロソフトと東京大学が2007年から協働で実施しており、今年で3年目となる。同プログラムには、全国から公募により選抜された障害のある高校生や高卒生が参加。障害者にとっては受験勉強だけでなく、進学後の生活にもさまざまな障壁が立ちはだかることが予想されるが、そうした困難をITを活用して乗り越えようというのがこのプログラムの主旨だ。

今回のプログラムには総勢27名が参加。先天性盲聾者(視覚と聴覚の重複障害者)として初の大学進学を目指す男子高校生や、再挑戦を志す発達障害の25歳男性、骨形成不全ながら海外留学を決めた車椅子生活の女子高生など、今年もさまざまな種類の障害を持つ志願者が集まった。例年同様に、同プログラムではマイクロソフト本社を訪れ、Windowsのアクセシビリティ機能やユーザ補助のための周辺機器の講習、Microsoft Visioを使ったマインド整理のための講義/実習を受講したほか、協賛企業のオフィス訪問などが行われた。

障害者のための進学支援は、テクノロジーやPCスキルのみに限らない。同プログラムでは、メンタル面でのケアにも目を向けているのが特筆すべき点だ。マイクロソフト 最高技術責任者の加治佐俊一氏が「マイクロソフトのアクセシビリティへの取り組みは20年以上になるが、そうした支援活動はテクノロジーだけでは十分に行き渡らない」と話すように、今年のプログラムでは、"情報共有"に従来よりも重点が置かれているように感じられた。報道関係者向けに公開された講習会では、Windows Liveメッセンジャーを利用して、同プログラム参加者どうしがミーティングする方法が教授されていた。

「Windows Liveメッセンジャー」を使った参加者ミーティングの講習会の様子

Windows標準のアクセシビリティ機能"拡大鏡"と"ハイコントラスト"の組み合わせで視覚障害者のユーザビリティを向上

東京大学 先端科学技術センター バリアフリー系准教授 巖淵守氏

同プログラムを指揮する、東京大学先端科学技術センターのバリアフリー系准教授 巖淵守氏は「今までプログラム後の個人としてのデータがまったく共有されておらず、受け入れる側の大学の体制にも活かされていない」と現状を語る。さらに「このプログラムは大切な部分であるものの、スタートライン。この後は、オンラインで学習相談や受験相談、交流を続けていくので、ここでそのためのコミュニケーション技法を学んでいくことも重要。さらに、将来的にはここでのユニークな体験を積んだ参加者がITを活用し、オピニオンリーダーとして社会に発信し、未来の社会へのブレークスルーとなる視点や価値観を生み出していってほしい」と、期待を込める。

現在のところ、同プログラムの参加者はのべ24名。うち大学進学者は6名にのぼり、残りは大学進学に向けチャレンジ中だという。また、これまで過去2年間を振り返り、「プログラムを通して参加者からの意見をOS開発に活かしたいとは思っているが、まだまだ参加者はWindowsの機能を使いこなすことで精一杯で、フィードバックにまでは至らないというのが実状。それに、OSの支援機能を紹介する場がまだまだ足りていないと感じている」(加治佐氏)、「具体的なフィードバックまでにはならないが、もともと障害者支援向けの機能でないものをうまく利用しているケースも見受けられる」(巖淵氏)といった感想が聞かれた。

マイクロソフト 最高技術責任者 加治佐俊一氏

一方、まだまだ米国の足元にも及んでいないとされる日本の障害者支援。米国の学生全体における障害のある学生の割合が11%と言われるのに対し、日本はわずか0.17%だ。この現状について巖淵氏は「日米の大きな違いはまず法制度にある。アメリカには1975年に制定された「全障害児教育法」や1990年に制定された「ADA(米国障害者法、障害者の差別を禁じる連邦法)」により、障害を理由に進学を拒否することが明確に禁じられ、教育現場には障害者に必要な支援機器の導入が奨励されている。日本にはこうした法制度がない中で、我々のプログラムが自分たちの障害を社会に伝えていく機会になれれば」とコメント。また、欧米版のDO-ITプログラムがそれぞれ個人アクセスするというのに対し、「日本版は情報を集約し、一人で頑張らずに一緒にやっていこうよというのがコンセプト」と説明した。

また、IT機器の観点から見た障害者支援の日米の違いについて、加治佐氏は「言語的な違いもあると感じる。直接入力で済み処理が簡単な英語に対して、日本語はローマ字で入力してさらに漢字変換で選ばなければならず、障害者にとってはもう一段階高いハードルがある」と分析した。

同プログラムでは、今回のような体験プログラムだけでなく、以降もオンラインによる情報発信や共有を続け、進学後の大学生活へのフィードバック、後輩へのアドバイスを行うチューター的役割を担うなど、2年目以降も継続的に関わっていくという。