--価値がある技術、特許を見分ける手法はありますか?

フェルプス それは大変難しいことです。自分の企業が持っている技術、特許の価値を見定めることも難しいことですし、ましてや、それを行政が見極めるのはもっと難しい。なかには、発明が価値を持つようになるまで長い時間がかかることがある。これまでの経験を見ても、行政が「これは将来的に価値を持つ」と判断した技術は、間違っていることが多い。

1980年代にはアナログのHDテレビが画期的テクノロジーだと考えられたが、結局は小さな企業が発明したデジタルHDが、その後の主流となっている。どの特許が価値があるものであるのかという判断は、大変難しいとしかいいようがありません。

--特許申請に関するコスト負担は、企業にとっては大きな問題となっているようですが

フェルプス 特許申請に関する費用は企業にとって大きな負担となっているのは事実です。ひとつの技術を、必要とされる様々な国において特許申請する費用と手間は、知財部門にとっては大きな問題です。

例えば、各国の特許を管理する行政が協力しあい、ある国で認められた特許が、他国でも尊重されるようになれば、企業にとっては大変よい結果を生むと考えています。完璧な状態を想定すると、日本で特許を受けたものは、米国でも特許が認められるという形です。

最近では、日米の行政の間で、特許に関する情報共有が始まっています。これは小さな一歩ですが、日米の関係を見て、他の国でも同じことをしなくてはならない、という状況になってくるのではないでしょうか。マイクロソフトとしても、こうした動きが加速するように働きかけをしていく考えです。

--世界的な動向を見る上では、やはり中国の動きが気になります。中国の特許動向をどう捉えていますか?

フェルプス 実際に中国を訪問してみると、ここ2年で大きく変化したといえます。現在、中国国内における研究開発投資は、年率25%増で増えている。それとともに、特許行政も強くなってきています。いまでは、中国における特許申請数は、米国における特許申請数を上回っています。そして、最近の発表では、知財に関する裁判所を中国国内に50か所設置するという報道もある。

中国国内から発明される技術が増えるのに従って、中国自身が、知財で自分たちの発明を守るという動きが出ている。すべてにおいて知財に関する問題が解決されているわけではないが、大きなステップを踏み出しているのは間違いありません。

--一方で、日本における知財行政の問題点はありますか?

フェルプス 日本の知財を取り巻く環境は大変いい状況にあり、先進的ともいえます。ただ、特許に関わる紛争処理などで、もっと効率性を求めるべきだという課題があります。日本での特許紛争にはあまりにも時間がかかるという傾向がある。そこに改善の余地があるのではないでしょうか。

--マイクロソフトは、7月1日から新年度に突入したわけですが、FY2010における知財戦略のポイントはどこにおきますか?

フェルプス 先ほどお話したように、研究開発投資と成果の保護をどうするかといったバランスが、マイクロソフトの知財戦略にも求められています。これは、今年度というだけでなく、長期的な課題ともいえます。どこにコストをかけるのか、どこにコストがかかっているのか、そして有益な特許とはなにか、を明確にする必要があります。

それと、マイクソロフトにとってはオープンイノベーションモデルを加速していく必要がある。FY2010に関しては、この点に力を入れたい。有益な特許をクロスライセンスを通じてお互いに共有するといったことも必要でしょう。それがマイクロソフトだけでなく、産業全体を発展することにつながると考えています。