富士通の半導体子会社である富士通マイクロエレクトロニクス(FML)は4月22日、車載マルチメディア情報ネットワークシステムのコスト削減と低燃費につながる車体軽量化を実現する「1394 Automotive(IDB-1394)」規格に準拠したコントローラーLSI「MB88395」を開発し、即日サンプル出荷を開始したことを発表した。サンプル価格は1,700円で、車載向けHD対応パネルの普及が開始されることが見込まれる2012年ごろの量産を計画する。

「MB88395」のチップ外観

富士通マイクロエレクトロニクス 基盤商品事業本部 自動車事業部長の独古康昭氏

同社は、車載半導体として"ボディ""ダッシュボード""マルチメディア""シャシー"の4分野を中心にビジネスを行っているが、その中でもマルチメディア分野について同社基盤商品事業本部 自動車事業部長 独古康昭氏は「同分野には車載ネットワークとしてMOSTがあるが、伝送スピードは25Mbps程度のものが普及している。これではオーディオ止まり。しかも最高伝送速度が150Mbpsで、HDの動画を伝送するのには負荷が高すぎる」とし、より高速な伝送速度を実現する1394 Automotiveにシフトしていくはずとの見方を示した。

FMLの車載半導体事業の取り組んでいる主分野

車内ネットワークのロードマップ

今回発表されたMB88395は、同社が提供する1394 Automotive向けコントローラLSIの第2世代品であり、プロセスを前世代の0.18μmから110nmへと変更したことで、従来品比で2倍となる伝送速度800Mbpsを実現する。

富士通マイクロエレクトロニクス 基盤商品事業本部 自動車事業部 ソリューション技術部 担当部長の川西末広氏

同社基盤商品事業本部 自動車事業部 ソリューション技術部 担当部長の川西末広氏は、「車載情報系ネットワークには、ワイヤハーネスの削減や後部座席への制御権の分与といった"1種類のネットワークによる統合"、車外ITSとの連携のための"TCP/IP伝送"、リアディスプレイからの相互方向制御に向けた"低遅延での映像多重伝送"が求められている」と語るほか、「アナログコンテンツとして、"2011年7月24日"にテレビ放送、"2013年12月31日"にBlu-Rayビデオのアナログ出力がそれぞれ終了するため、デジタルHDコンテンツの伝送が必須となってくるほか、広帯域のデジタル著作権保護伝送技術が必要となる」(同)と語る。

MB88395には、1394TAならびにDTLAで標準化されたコンテンツ保護技術である車載向け映像コーデック「SmartCODEC」ならびに著作権保護機能「DTCP」を搭載、低遅延による伝送ならびにコンテンツ保護が可能となっている。また、HDコンテンツ再生のネットワークとして、従来はH.264のエンコーダとデコーダ、ならびに外付けのフレームメモリ、コントローラの3チップが送信側、受信側ともに必要であったが、同製品を用いることで、それが1チップに集約でき、リアシートエンタテインメントのシステムコストを最大30%削減するとともに、ワイヤハーネスの量も最大70%削減することが可能となるという。

1チップでHDコンテンツの伝送が可能でありワイヤハーネスやチップコストの削減が可能なほか、H.264チップのエンコード/デコードによる遅延などが生じない

さらに、SmartCODECを1部拡張、BT.601(YUV、RGB)を1/3と1/4の圧縮伸張に対応させたほか、720pのビデオモードをサポートした。なお、エンコード、デコードの時間には変化はなく、合計で2~3msで終了するという。これにより、「Blu-Rayビデオのデータが885Mbps(1280×720×60fps、YUV、16ビット)であっても、1/4に圧縮することで249Mbpsとなり、複数のデータの伝送を行っても問題がなくなった」(同)とする。

これにより、「1つのチップで、さまざまなグレードの車載マルチメディアに対応できるようになり、プラットフォームの共通化による開発コストの削減などが見込めるようになる」(同)といった効果も期待できるという。

ハイエンド、ミドルエンド、ローエンド、すべてのクラスに同じプラットフォームの提供が可能となる

このほか、1394 Automotiveを用いる情報系システムのネットワークとCANやLIN、FlexRayなどを用いる制御系システムのネットワークをゲートウェイを介して接続することで、車外ITS情報を車内に取り込み、それを各種の制御系にもフィードバックするといったことが可能になるとしており、「1394 Automotiveは、将来の自動車の車載ECUの神経網としての役割も持たせることができるようになる」(同)としており、自動車メーカーならびに機器メーカーに対して、積極的に働きかけを行っていきたいとしている。

MB88395のデモ風景(左写真の右上にBlu-Rayプレーヤがあり、それをYUV変換する基板を通し、銀色のMB88395搭載ケースでエンコード、ワイヤハーネスで800Mbpsで伝送し、受信側のMB88395搭載ケースでデコード、それをLVDS変換するボードを介してディスプレイに表示したのが右の写真)