安井氏は、計画というと「約束」「予算」などの言葉を連想し、言われてやらされるというようなイメージがつきまといがちだが、計画は必要だと語る。

「たとえば、電車の時刻表は緻密に計画されていますが、これがなければどこにも行けなくなってしまいます。仕事の上では、複数の人・チーム・部署・企業が連携するために必要ですし、将来に備えて準備するためにも必要です。上司やマネージメント、経営層が状況把握のために求めてきたりもします。計画には嫌なイメージがあるかもしれませんが、必要なものですよね」(安井氏)

また、計画には、立てることによって目標をさらに良いものにできるメリットもあるという。

「旅行のときには計画を立てます。これは見たいものをなるべく見るためですが、計画を立てる中で新たに見たいものが見つかることもあります。また、計画中には何がしたいかをよく考えるようになります。例えば、行くところに何があるのか、途中に何があるのかをよく調査しますし、同行者ともよく話し合います。そして、結果として、より良い旅行の計画が立てられるだけではなく、旅行そのものが良くなるのです」(安井氏)

さらに安井氏は、海賊映画に出てきそうな"宝の地図"の絵を見せ、「最初の地図はあいまいで不正確であることを認識することが大事です。それを踏まえて前進する。前進すると当然失敗したり、予想外のことが起きたりするので、そこで地図を修正します。修正した地図に従って進み、何度も克服したり直したりしていくと、地図全体からあいまいさが減っていきます。前進して修正していくことで、やがて正しい宝のありかが分かるし、行き方も分かるようになります」と語る。

安井氏が見せた"宝の地図"

安井氏は、これをソフトウェア開発に当てはめ、「最初は達成すべきゴールがあいまいで不明確だが、進みながら知識と経験を得て計画を修正し、現実的かつもっとも価値のあるゴールを探ることが大切です」とまとめた。

つまり、計画は最初から決まっているゴールへの道順ではなく、「計画づくりそのものが価値のあるゴールを求めて探っていくこと」だと認識することが大事なのだという。これはまさに書籍のなかで、計画づくりの目的として語られていることである。 書籍の中には、次のような記述がある。

『見積もりと計画づくりは、期日やスケジュールを決定するだけのものではない。計画づくりとは価値の探究なのだ。とりわけ計画づくりを継続的に繰り返しながらおこなう場合はそうだ。計画づくりとは、ソフトウェア開発の全体にわたる問いに対する適切な答えを探る試みなのだ。その問いとは「なにをつくるべきか?」である。』(本書より引用) 

安井氏は「ここでいう価値とは、最初から決まっているものではありません。一方的に与えられるものでもありません。ソフトウェア開発では、ユーザーやステークホルダーから探り出していかなければならないのです。そういう価値を求めて計画を立てていく、つまり変化に対応することを計画に織り込む。もっと言うと、積極的に変化するために計画をつくる。変化してもいい、ではなくて変化するために計画をつくる、それが本当の価値にたどりつくための手段ですね」と解説した。

安井氏はこれを下記のようにまとめている。

・頻繁に見直して計画する
・変更しやすい計画をつくる
・立てた計画はすぐに捨ててしまうが、計画づくりはだんだん上手になる
・計画を改善できるように計画する