学術論文や特許情報などの調査会社であるトムソン・ロイターの調べによると、2008年に最も数多く引用された学術論文は、東京工業大学応用セラミック研究所の神原陽一氏を筆頭著者とする鉄系高温超伝導物質の発見に関する論文「"Iron-based superconductor with La[O1-xFx]FeAs (x = 0.05-0.12) with Tc = 26 K"」(タイトル名)だった。
被引用件数は249件で、2位の119件(ヒトの体細胞の初期化について考察した論文)の2倍を超えている。なお2007年のトップは204件、2006年のトップは98件、2005年のトップは124件、2004年のトップは93件だったので、鉄系高温超伝導物質の論文が学術研究に非常に大きな影響を与えたことが分かる。
鉄系高温超伝導物質は、東京工業大学フロンティア研究センターの細野秀雄教授を中心とする研究グループが発見し、2008年2月に米国化学会誌のオンライン版に発表した(プリント版は2008年3月に発表されている)。
超伝導を示す物質としてはそれまで、金属系と銅酸化物系の2種類の物質が知られていた。高温超伝導物質と言われてきたのは、銅酸化物系である。鉄系超伝導物質は金属系および銅酸化物系のいずれとも異なる、第三の材料系となる。また第二の高温超伝導材料でもある。
しかも従来、鉄の化合物は超伝導の発現を妨げると考えられてきた。ところが鉄の化合物が絶対温度26Kと高い転移温度(超伝導状態に移行する温度)を示すことを、細野教授らのグループは発見した。このため、超伝導の常識を覆す発見だとも言われた。また鉄系高温超伝導物質を構成する元素の組み合わせが数多くあることも明らかになった。
これらの事柄が大きなインパクトを高温超伝導研究のコミュニティを与え、鉄系高温超伝導物質の研究に取りかかる研究者が国内および海外で続出した。この結果、非常に数多くの引用論文を輩出することになった。
なお米国の科学雑誌「Science」は、2008年12月19日号で科学分野における「2008年の10大ブレークスルー(Breakthrough of the year)」の1つに鉄系高温超伝導物質の発見を選出している。