宇宙航空研究開発機構(JAXA)は4月2日、4月1日より運用を開始した次世代のJAXA統合スーパーコンピュータシステム(JSS:JAXA Supercomputer System)を報道陣に公開した。JSSは、JAXAの調布事業所で稼働していた「数値シミュレータIII」の後継として導入されたもので、総合性能は同シミュレータと比べて約15倍程度向上しているという。

JAXAの情報・計算工学(JEDI)センターが管理・運営するスーパーコンピュータシステムで、従来JAXAが保有していた調布、角田、相模原の3拠点で別々に運用していた各スパコンシステムを一元的に管理運用することを目的に統合したもの。同システムの本格稼働に伴い、調布、角田の旧システムは廃止、相模原のシステム(SSS)はリース期間が2010年3月まで残っていることもあり、1年間はJSSと併用して運用された後、廃止されるという。

JSSの概要(開発のシミュレーション化による安全性の向上などを目指す)

JSSの構成は、メインシステムの「Mシステム」、各種特殊プロジェクトや試験実験など向けの「Pシステム」、ベクトルコンピュータによるベクトル計算向けアプリケーション資産用システム「Vシステム」、並列化されていない一般的なアプリケーションなどの計算用サーバ「Aシステム」の4つのスーパーコンピュータシステムにディスク装置1TB、テープ装置10PBのストレージシステムがつながるといった構成となっている。

JSSのハード構成

JSSの機能概要

JSSの運用概要

中核となるMシステムは、富士通の次世代テクニカルコンピューティングサーバ「FX1」を採用している。クアッドコアCPU「SPARC VII(動作周波数2.5GHz)」とその性能を最大限に引き出すためのコンパイラ、ならびにメモリバンド幅40GBpsを実現しながら1ノードあたり最大メモリ容量32GBを実現している。Mシステムには3008ノード(1万2,032コア)搭載され、94TBのメモリ容量で理論ピーク性能120TFLOPSを実現する。実際、LINPACKのベンチマークによる性能測定では、110.6TFLOPSの実行性能と91.19%の実効効率を達成。この結果は、2008年11月発表のTOP500で見ると実行効率で世界1位、実行性能で日本1位、ベンチマークランキングでは17位に位置づけられるという。

FX1に搭載されている「SPARC VII」

これで1ノード(中心のヒートシンクの下がCPU、左部分が電源、右がメモリの構成)

FX1のシャーシ(1台で4ノード搭載可能。消費電力は1ノードあたりLINPACKのピーク付近で350W程度だったとのこと)

JAXAの情報・計算工学(JEDI)センター センター長の藤井孝蔵氏(ちなみにJEDIは"ジェダイ"と呼び、藤井氏曰く「ジェダイ(フォース)の力で宇宙開発を進める」とのこと)

同システムについて、JEDIセンターのセンター長である藤井孝蔵氏は、「これまでスーパーコンピュータを、個別プロセスでの開発に用いることはあっても、宇宙開発全体のプロセスの中に組み込んで用いることはなかった。JSSはそうしたことを実現するシステム」とし、「そのためにはLINPACKのような見た目の性能ではなく、実際に用いられるアプリケーションで高い性能を発揮するシステムを選定した。LINPACKの数値だが、実効効率の高さは我々の求めていた実際のプログラムの処理性能に関わってくる点であり、高い値に満足している」と語った。

PシステムはMシステムの規模縮小版で、FX1を使用。384ノードで、6TBのメモリと44TBのディスク容量を有し、15TFLOPSの性能となっている。

Mシステム(左)とPシステム(右)(3列に並んでおり、その間に空調設備が置かれている。筐体で温まった空気は天井のダクトを通り、空調機へと入り、冷却され床下ダクトを通って吹き上げられ、それが筐体へと吸入されていく。ちなみに室温は18℃に設定されていた)

FX1のラック外観(左)とラックの内側(右)

稼働しているFX1のシャーシの裏面

VシステムはNECのベクトルコンピュータ「SX-9」を1台導入しており、Aシステムには富士通のUNIXサーバ「SPARC Enterprise M9000」を採用、32CPU(128コア)、1TBメモリ、10TBディスクで1.2TFLOPSの性能を実現する。また、ストレージシステムにはIBMの「System Storage」が採用されている。

NECの「SX-9」(左)と富士通の「SPARC Enterprise M9000」(右)

IBMの「System Storage」

気になるのが運用面だが、従来システム同様一般企業にも解放される予定だが、どの程度の割合まで割けるかは今後検討していくという。また、複数のシステムが存在するJSSを効率よく運用していくために、スケジューラを独自開発し適用するという。実際に前の調布事業所のシステムで運用していた独自スケジューラによる利用率は90%を達成しており、これを並列化させることにより、JSSでも90%を超す利用率を目指すとしている。

JSSの運用期間は5年間で、リース総額は100億円となっている。また、VシステムおよびAシステム、ストレージシステムの設置には既存の建物を流用し、MシステムとPシステムだけ新棟を建設するなど、その他の部分のコスト削減などを実施したという。

JSSの建物のイメージ図(左:建物の左側がMシステムおよびPシステムが設置されている新棟、右側が従来の建物を改修してVシステム、Aシステム、ストレージシステムを設置している)とJSS設置のために建設された新棟の外観(右)

なお、4月19日には調布事業所の一般公開が行われる予定。