第3世代PCクラスタの特長とは

2009年3月12日、埼玉県和光市にある理化学研究所(理研)の鈴木梅太郎ホールにおいて、理研シンポジウム「第3世代PCクラスタ」が開催された。

理化学研究所 和光キャンパスの西門入り口にある理研の看板

理研がどのような成り立ちであるか、といったことに関しては、2008年の理研シンポジウムにおいて説明しているので、そちらをご覧いただくとして、今回の理研シンポジウムでは、理研で現在運用しているスーパーコンピュータシステム(RIKEN Super Combined Cluster System:RSCC)の次のスーパーコンピュータシステム(RIKEN Integrated Cluster of Clusters:RICC)が第3世代PCクラスタということで、第3世代PCクラスタの特長やプログラミング手法などの発表が行われた。

ちなみに、第1世代PCクラスタというのは、単にPCを接続した小規模(数台のPC)を個人もしくは研究室単位で利用する形態を指し示し、第2世代PCクラスタというのがSCore3やRSCCといった大規模化し多数のユーザーで利用する形態のものを指し示す。では、第3世代PCクラスタとは何かというと、第2世代PCクラスタに比べ、1つのノードがマルチコア化して大規模になり、さらにGPGPUなどのアクセラレータなどを組み合わせて利用するという特長を持つ。

左から第1世代PCクラスタの代表的な形態、第2世代PCクラスタのスパコン、第3世代PCクラスタのスパコン

この考え方は、2012年の完成を目指し開発が進められている日本の次世代スーパーコンピュータにも適用されるという。次世代スーパーコンピュータプロジェクトは、総事業費1,154億円をかけ、理研を開発主体とし、特定先端大型研究施設の共用の促進に関する法律(2006年7月施行)に基づき、産学官の研究者などに幅広く開かれた共用施設として位置づけられる次世代スーパーコンピュータを開発、整備するほか、それを最大限活用するためのソフトウェアの開発・普及などの推進を実行するというもの。

次世代スーパーコンピュータの開発スケジュール

理化学研究所・情報基盤センター 次世代スーパーコンピュータ開発実施本部の姫野龍太郎氏

理化学研究所・情報基盤センター 次世代スーパーコンピュータ開発実施本部の姫野龍太郎氏によると、「今年度末までに各部分の基本的な設計が終了する」という。また、建屋の建設も始まっており、兵庫県神戸市のポートアイランドにて建設が進められており、2010年5月には全体が完成する予定としている。

この施設は、大きく計算機棟と研究棟に分かれており、計算機棟は鉄骨造りの地上3階、地下1階で述べ床面積約1万500m2となっている。また、研究棟は鉄骨造りで地上6階、地下1階で述べ床面積は約9,000m2となっている。このほかの施設としては、電源供給のための特高受変電設備、計算機棟の空調機を冷却させる冷却設備、環境負荷低減のためのコジェネレーションシステム(CGS)などが設置される予定だ。

次世代スパコンの建設地

次世代スパコンの施設概要

次世代スパコン施設の完成イメージ

次世代スパコン施設の建設地とその周辺図

建屋の建設状況の推移と周辺から見た建設状況

次世代スパコンに関して姫野氏は、「ノイズ耐性については光ファイバを部分的に用いて向上させているほか、建物については、世界のスパコン利用者に向けたショールーム的な意味合いを持たせており、過度な設計などをしないようにした」としている。

ちなみに、文部科学省の構想では、各年代ごとに実行性能を引き上げたナショナルリーダーシップとなる汎用スパコンを用意。そこでしかできない計算などを行わせるのと同時に、それを次世代のナショナルインフラストラクチャと位置づけようとしている。つまり、国内トップレベルのスパコンといえども、数年後には一般の研究所レベルで日常的に大規模計算に用いられるレベルに位置づけられるようになるという。ただし、これは「次世代スパコンと既存のスパコンの橋渡し的な役割も持たせてあり、そのために既存のPCクラスタと次世代スパコン、それぞれと同じハードウェアを使う部分を含めるシステムとする必要がある」(同)とする。

前世代の最高クラスのスパコンが次世代では1ランク下の、ある程度まとまったハイエンド層一般で使用することが可能となる(左が文部科学省が提示する資料、右がそれを1世代に区切り簡略化したもの)

理研が2004年に導入したRSCCの役割として、「既存の利用者へさらなる高性能システムの提供」「理研内の新たな利用分野の開拓」といったものがあるが、次世代システムであるRICCでは、それに「次世代スパコンで計算するアプリケーションを開発する場の提供」および「次次世代以降のスパコンへのハード・ソフト的なテストの場とすること」の2つが追加されることとなる。

そのため、RICCではチャレンジとして、「千から万にいたる並列性能のテスト環境を用意すること」ならびに「MD-GRAPEやGPUといったアクセラレータによる性能向上の可能性と応用分野の開拓を進めること」が掲げられているという。