IT専門調査会社のIDC Japanは、2009年における国内IT市場でキーとなる技術や市場トレンド、ベンダーの動きなど、主要10項目についての予測を発表した。予測内容は以下の通り。

1.国内IT市場は、これまでの拡大傾向から一変してマイナス成長となる

経済環境の急速な悪化が企業の投資活動を抑制し、2009年のIT市場全体では前年比成長率はマイナス1.7%と予測。国内のIT投資がプラスの成長を回復するのは2010年以降になる。

2.仮想化サーバとシステム管理ソフトウェアの拡大がSIerの選別を促進する

サーバの仮想化は市場の大きな流れとなり、2009年、さらにストレージやネットワークを含めて、システムインフラ全体の仮想化の実現によって、さらに維持管理コストの低減と管理の容易性、システム構築の柔軟性が求められる。仮想化システムを製品として提供するベンダーは、大手ユーザー企業での利用実績を早期に獲得するため、ユーザー企業からの信頼の厚いSIerを、自社のパートナーとして迎え早期に成功事例を作る努力を進める。ユーザー企業と製品ベンダーの双方から信頼を得られるSIerの優位性が急速に高まり、選択が進む。

3.PCの急速な価格下落によって、主要ベンダーの事業撤退が起こる

これまでのところ個人による利用に止まっているが、価格性能比が向上するに従い、企業向けPC市場に低価格PCが大規模に受け入れられ、2009年には全出荷台数の11.3%となる165万8,000台に達する。これにより、低価格PCを販売していないベンダーにとって市場機会が縮小。性能差が縮まる状況の中では、価格を引き下げる努力が欠かせず、その結果収益性低下が顕在化し、2009年中に市場からの撤退を選択するベンダーが出る。

4.バーチャルクライアント化が進展し、サーバとストレージによる処理集中化への回帰が起こる

PC自体の維持管理コスト削減や、セキュリティおよびコンプライアンスの観点から情報の一元管理や情報共有が求められ、その実現手段として、低価格PCを利用したバーチャルクライアントの利用が検討される。低価格PCの導入は結果的にWebアプリケーションの利用を促進し、サーバの強化とストレージ管理システムの充実に結び付き、場合によっては新規のシステム構築市場を拡大させる可能性を持っている。

5. モバイルPCの利用拡大と、携帯電話向けアプリケーションの増加によって、クラウドコンピューティングへの流れが加速する

低価格PCの無線LAN接続の急速な普及と、携帯電話のインターネット接続は、互いに同期をとりながらビジネス向けアプリケーションの品揃えを強化することになる。また、移動体通信事業者にとっては、双方ともサービス収益拡大の期待が持てる。両者が相互に影響し合ってビジネス向けアプリケーションの拡充が進むことで、クラウドコンピューティングに向かう動きが加速する。

6.部門単位のSaaS利用拡大はIT統制見直しの契機となる

SaaS利用の環境が整備され、各事業部やグループなど、より小さな組織単位での利用が進展。2009年は、SaaSの利便性やクラウドコンピューティングに向けた取り組みが進展する一方で、IT統制の不備による企業の不祥事や破綻が起こり、IT統制の重要性に改めて注目が集まる。

7.セキュリティ市場に新技術が投入され、システムインフラ整備の重要な要素となる

ウイルスの種類が急速に増加し、また発生間隔が短くなる傾向にあり、こうした事態に対応するため、インターネット上で攻撃パターンをチェックすることで、最新のデータベースによる検知を可能にするサービス導入が速いペースで進む。2009年はさらに、情報漏洩や文書改竄など内部からの脅威に対応するソリューションに注意が向けられる年になる。

8.データセンターのグリーン化への取り組みが本格化する

データセンター事業者は、電力コストを抑えることでデータセンターの利用料金を低く設定し、より多くのクライアントをサポートできる。ここに温暖化ガス排出権取引を結び付けられれば、自前で非効率なデータセンターを構築するという動きを抑制し、効率の良いデータセンターを利用することで、排出権を他社に販売できると同時に、地球温暖化抑止に向けて積極的に活動する企業として、その貢献を社会にアピールすることができる。

9.日本のITベンダーによる海外進出が加速する

国内市場のIT分野の成長性が低いことから、国内ITベンダーの海外進出は重要な選択肢となっている。製品の開発からマーケティングまで、一体化したアプローチが実現できるかどうかが国内ベンダーにとって買収を成功させる鍵となる。

10.ITベンダーのコンプライアンスへの対応力が試される

ITベンダーがコンプライアンス関連のITソリューションを提供する場面では、技術上の課題解決だけでなく、金融機関の融資条件にも適合するシステムを提供できる能力を備える必要がある。