米Dellが世界で保有するすべてのPC製造工場を売却または閉鎖することを計画している。その目的は、PC市場が大きな変革を迎えるなか、より高い利益体質へとビジネスを改善することにあるようだ。米Wall Street Journal(WSJ)が9月5日(現地時間)付けの紙面で報じている。

同社が世界で保有する工場は、より迅速で品質の高いBTOを実現するために必要不可欠なものであり、同社のビジネスの象徴でもあった。だがPC業界の巨人にいま何が起きているのか?

WSJが関係者の話として伝えるところによれば、Dellは過去数ヶ月の間にPC製造を請け負う業者らに対し接触を行っており、自身の工場売却を持ちかけているという。ある人物の話によれば、同社は工場のほとんど、あるいはすべての売却を今後18ヶ月の間に行うことを目指している。そして売れ残った工場については閉鎖することを示唆しているという。Dellは工場を売却した業者に対し、今度は自身のPC製品の製造を依頼する契約を結ぶ計画となっている。

Webまたは電話でPCを注文すると、それに応じた構成のマシンを組み立ててすぐに出荷する。余分な在庫を抱えることなく、適時スピーディに注文を捌けるDellスタイルは同社を一躍PC業界のトップ企業へと押し上げる原動力になった。こうした注文に対応するため、Dellは本社のある米テキサス州を皮切りに、テネシー州、ノースカロライナ州、フロリダ州と米国内へと製造拠点を広げ、国外にはアイルランド、インド、中国、ブラジル、マレーシアなどに設置した工場で製造を行っている。さらに2007年初頭には欧州市場攻略の拠点として新たにポーランドの新工場をオープンさせた。

だがこうした情勢にも変化が訪れている。1つは市場のノートPCへのシフトで、すでに金額ベースではデスクトップPCのそれを上回っており、さらに出荷台数ベースでも先進国を中心にほぼ逆転する水準にまで到達している。ノートPCの製造工程は複雑で、低コストで製造するためにはさらなる技術水準が要求される。台湾や中国など、アジア系のPC製造請負業者がノートPC市場のシェアで大きな躍進を見せているのも、こうした技術面での水準向上に依る部分が大きい。WSJによれば、DellのライバルのHewlett-Packard(HP)はすでにこうした契約業者への委託へとシフトしており、自社工場での製造比率は半分以下にまで減少しているという。Dellの今回の一大決断も、大幅なコストカットと技術向上を実現するための戦略転換が根底にある。

Dellは今回の工場売却で、まずは工場の維持費や製造コストに関する問題を解決する。その後、売却先の業者に製造委託を持ちかけ、そのまま売却した工場でPCの製造を続けてもらう契約を結ぶ。売却先候補としては、前述のようなアジア地域での大手製造業者らが挙げられており、売却後は上記の条件で製造委託契約を締結することになるという。だが売却に際してはいくつかのハードルも存在している。例えば地域によっては、自治体との契約を条件にいくつかの優遇措置を受けている場合もあり、これが工場を購入した事業者にとって足かせとなる可能性がある。また米国内の工場は賃金水準が高く、コストダウンを目的としたDellの目論見にマイナス効果を生み出す危険性もある。