日本からいかに優秀なIT人材を輩出するか。マイクロソフトと国立高等専門学校機構が、世界に通用する高度IT人材の育成を目的とした共同教育プロジェクトをスタートさせた。2008年8月から2009年3月までの8カ月間、高専生を対象に集中的に育成プログラムを実施する。その第一弾である「ITリーダーズ育成キャンプ」が8月11日~13日に開催された。

ロジカルコミュニケーションに関する講義の様子。しだいに緊張の解れた高専生と講師の間で活発なやりとりが行なわれた

学生のIT業界離れが問題となっている昨今、マイクロソフトでは状況の改善に積極的に取り組んでいる。「全国高専キャラバン」や「The Student Day」などのイベントを通じて、学生とIT業界の橋渡しの機会を作ってきた。世界規模では、Imagine Cupを主催し、IT技術を学ぶ生徒たちに挑戦の場を提供している。

今回、同社は新たに、国立高専機構と共同で8カ月間に渡る高度IT人材育成プロジェクトに取り組む。その皮切りとなるのが、先日、東京・八王子市の八王子セミナーハウスで行なわれたITリーダーズ育成キャンプだ。参加した学生は、全国の高専から選抜された男女計21名(18高専)。キャンプには、実際にマイクロソフト社内でマネージャー職を対象に行なわれる合宿の要素を取り入れ、学生たちは実践的なヒューマンスキルに関するレクチャーを受けた。

キャンプ初日の自己紹介の様子。キャンプ参加の志望理由に、プロジェクトリーダーに必要なスキルの習得を挙げる学生が多い。過去の高専プロコンにおける舵取り役に力不足を感じたこと、今後の必要性を感じたことなど、その動機はさまざま。Imagine Cup 2008 フランス大会のソフトウェアデザイン部門に挑戦したNISLabのメンバーも参加した

マイクロソフトの田中氏は、共同教育プロジェクトを進めるうえで、「高専の学生がどうすれば、世界との距離を縮められるか、いちはやく世界へ飛び立てるか」を考えたと語る(写真は8月7日の記者会見時のもの)

リーダーシップをとってプロジェクトを動かせ!

本キャンプの狙いは、新たなITプロジェクトへの挑戦につなげること。マイクロソフトで同プロジェクトを担当する田中達彦氏(デベロッパー&プラットフォーム統括本部 高度IT人材育成担当 マネージャー)が「マネジメントを意識してプロジェクトを進めていく。通常は企業に入ってから学ぶことだが、これをいち早く経験してもらう」と語るように、キャンプ最終日には具体的な行動を求める課題が発表された。ここで学んだリーダーシップを活かし、各自の高専においてソフトウェア開発プロジェクトの立ち上げから校内発表までを行なうというもの。一連の取り組みをまとめた最終レポートの提出期限は2009年3月。そして、その取り組みを校内にとどめず、「Imagine Cup 2009 エジプト大会」(日本大会は2009年4月開催)や「全国高等専門学校プログラミングコンテスト」(高専プロコン)へとつなげてほしいとしている。

ITリーダーズ育成キャンプに参加した高専生が学んだスキルは、論理的な意思の疎通を図るための「ロジカルコミュニケーション」、プロジェクト全体の管理に必要となる「プロジェクトマネジメント」、効果的にプロジェクト内容を伝えるための「プレゼンテーション」。こうしたヒューマンスキルは、IT技術者が国際的に活動するためにも、プロジェクトを動かすためにも欠かせない要素であり、とくに日本人が弱い部分と言われる。マイクロソフトの大場章弘氏(執行役 デベロッパー&プラットフォーム統括本部長)は同社の米国本社を例にとり、「リーダーシップを持ち、意見を言う。他人を巻き込んで大きな事を達成する、ビジネスの視点で考える、他国の状況を見て物事を進めていく」ことができるチームマネジメント能力の高い人材が求められると話す。しかし、多くの優秀な技術者を輩出してきた高専でも、教育現場でそうした実践的なヒューマンスキルを教えることは難しく、「学校の中に閉じただけの教育には限界を感じている」(国立高等専門学校機構 理事 小田公彦氏)。マイクロソフトとの提携によって、高専生にヒューマンスキルを教育する機会を得ることになる。

キャンプに参加した21名の学生には、リーダーシップの実践と周囲を引き込んでアクションを起こすことが求められた。その経験によって、将来のIT技術者のリーダーに必要な資質が磨かれることを期待したい。世界的なIT需要の中、技術者を束ねるチカラを持つ人材の重要性がさらに高まっている。そうした高度IT人材育成への取り組みは、人材不足に悩む日本のIT業界が国際競争の中で生き残る道のひとつといえるだろう。