『ポラロイド SX-70』に製品プロモーション術を学ぶ

イームズは製品のプロモーション映像も多数制作している

意外なことに、イームズはプロモーション・ビデオの制作も手がけている。クライアントはポラロイドで、製品は1972年発売の名機「SX-70」だ。後にインスタントカメラそのものを指すようになるポラロイド。この製品は当時3歳だった創設者の娘の「どうして撮影した写真をその場で見られないの?」という素朴な疑問をきっかけに発明された。そうした経緯を汲んでか、子供でも楽しめる製品であることをアピールするため、イームズはのどかな音楽に乗せてポラロイドのある風景を演出している。また、シャッターを押すだけという簡易な操作性の裏にある高度な技術を、実写とアニメーションを組み合わせて専門的に解説した。奇しくも今年、ポラロイド社はインスタントフィルムの生産を終了すると表明した。当時の時代のニーズを具現化したポラロイドの功績は、イームズ作の印象的なプロモーション・ビデオと共に人々の記憶に刻まれ続けるだろう。

数学とアニメーションとを融合させた『α』、『指数』

アニメーションを利用し、数式を斬新な映像で見せてくれる

数学をアニメーション映像で表現した異色の作品『α』、『指数』。ジャズやギターの調べに乗せて、数式が変化していく映像プロセスが何とも愉快。アニメーションや実写など映像表現には様々な形態があるが、何かを表現しようとするとき、必ず相性が存在する。何がアニメーションに向いていて、何が実写に向いているのか。あるいは、何が向いていないのか。表現における相性の問題を『α』や『指数』を眺めながら、つい再考してしまう。なお、DVDには数学をモチーフにしたユニークな作品が、他にもいくつか収録されている。

映像に香りを加えた作品『パン』

匂い付き映像という当時としては斬新な試み

ジョージア大学の美術部学長に新しい美術教育法を考案するよう依頼され、イームズが制作した短編。パンを題材に6分の実写映像としてまとめられた。この作品がジョージア大学内で上映された際、なんと、イームズのアイデアで上映会場の通気ダクトから、パンの焼ける匂いが流されたという。視覚だけでなく、嗅覚をも刺激する遊び心満載の作品だ。もしかして、「仮想現実」というものを、当時のイームズは意識していたのだろうか?

イームズにとって映像とは何だったのか?

DVDに収録されていない作品も合わせると、イームズは125本前後もの映像作品を制作したようである。そして、その数は、彼らがデザインした椅子の種類よりも多い……。しかし、一般的にイームズの映像作品は、今回のDVD発売までほとんど一般には知られていなかった。なぜなら、これらの作品の大部分は、企業や公的機関等から委嘱された作品か、純粋なプライベート作品として制作させたものだったからだ。実はこうした背景が、ある意味ではイームズの映像世界の根幹を成しているともいえる。

チャールズ・イームズは『デザイン Q&A』の中で「もの作りには楽しみ自体も有用である」と語っている。イームズ夫妻は制約に挑戦し、実験的かつユーモラスな映像作品を、人知れずに、数多く作り続けた。デザイナーとして成功した彼らは、映像で商業的成功を収めることよりも、映像制作のプロセスを楽しむこと自体に意義を見出していたのではないだろうか。映像を作るというクリエイティブな時間を過ごすことこそが、彼らの真の目的だったのではないかという気さえする。

クリエイティブに携わる者として、作品が多くの人に受け入れられ、いかにヒットするかについて考えを巡らすことは重要ではある。しかし、「何のために、誰のために作品を作るのか?」ということを、このイームズの映像作品に触れながら考えてみる事も、必要なのかもしれない。

『チャールズ&レイ・イームズ 映像作品集 DVD-BOX』
発売元:IMAGICA TV(※Disc1のみアスミック・エース・エンタテインメント)
販売元:ジェネオンエンタテインメント
収録時間199分(全20ページの特製ブックレット封入)
発売中 15,225円(税込)