ライブドアとブルーカレント・ジャパンは7月9日、ライブドアが運営するブログサービス「livedoor Blog」(ライブドア・ブログ)における業務提携を行うと発表、同日付で共同開発PRソリューション「ライブドア・インフルエンサー・プログラム」の運営を開始した。

「インフルエンサー」とは、インターネット上の世論形成や消費動向に対して、特に強い影響力を持つとされるブロガーのこと。こうしたインフルエンサーの影響力を活用するマーケティング手法は、クチコミマーケティング、あるいはバズマーケティングと呼ばれ、テレビCMなどの既存の広告媒体に代わる、新たなマーケティング手法として注目されている。

今回の業務提携も、こうしたインフルエンサーからの「クチコミの誘発」をねらったものだ。2008年7月の時点で、260万人の会員が所属するライブドア・ブログの中から、顧客企業の目的と適合した影響力の大きいブロガーを選出。商品サンプルの提供やイベントへの参加依頼を行い、商品をPRするブログ記事の執筆を促し、企業の販促活動に役立てる。

ライブドアは、ブロガーの選出やシステムの運営を担当。一方のブルーカレント・ジャパンは、PR会社としてのノウハウを活かし、ブロガーへのアプローチやイベントの企画、既存のマスメディアとの連動施策などを提案、大手広告代理店などに向けて販売を行う。すでにエンターテイメント、消費財、化粧品業界などで、5~6社の導入が決定しているという。

ブロガーの自主性を信頼

個人ブログで発信される情報を、どのようにしてマーケティング活動の中に組み入れるか、いかにして「インフルエンサーを味方に付けるか」ということは、現在では多くの企業やネット広告会社、メディアの関心事となっている。だが、インフルエンサーや彼らのブログの熱心な読者であるブロガーの中には、企業の側に寄ること、囲われることに嫌悪を示す人も多い。それゆえに、クチコミマーケティングをコントロールすることは難しいとも指摘されてきた。

読者から「ヤラセ記事」の疑いをかけられたブログは、高い確率で「炎上」する。たとえば「素人のレビュー記事」を装って、企業が情報をコントロールしようとした場合。それが発覚すると、ネットユーザーはここぞとばかりにブログや企業を攻撃しはじめる。ブログには、その商品や企業に対して否定的なコメントばかりがポストされる事態に陥る。こうなると、企業にとっては自社製品のPRどころではなく、逆にブランドイメージの低下を招きかねない。このような事例について知りたければ、「企業ブログ」「炎上」などのキーワードでググってみるとよいだろう。

とはいえ、ブロガーの自主性にまかせて執筆してもらうのも難しい。必ずしも好意的な記事ばかりを書いてもらえるとは限らないからだ。商品の欠点ばかりを取り上げられる可能性もあるし、そもそも、まったく記事を書いてもらえない場合だってありうる。ポジティブなPR効果を常に望めるとは言いきれない点が、クチコミマーケティングが抱える問題点である。

ライブドアとブルーカレント・ジャパンの両社は、これに対してどのようなソリューションを提供するのか。両社が選択したのは、ブロガーの自主性に任せる方向だ。

ブログ広告には、記事を執筆したブロガーに報酬を支払う「ペイ・パー・ポスト」(Pay Per Post)という仕組みがあるが、「ライブドア・インフルエンサー・プログラム」ではこのペイ・パー・ポストを採用せず、ブロガーへの金銭の授受は一切行わない方針。商品に関する情報を提供したり、PRイベントへの誘致を行ったりすることで、ブログ記事の執筆を促していく。

ライブドア代表取締役社長 出澤剛氏

「単なるヤラセとか、プロモーションのツールとしてではなく、ブログを信頼のおけるメディアとして、クライアント様に提供、紹介していきたい」(ライブドア代表取締役社長 出澤剛氏)との言葉どおり、ブロガーの自主性を信頼するという姿勢を示したものだ。すべてをブロガー任せにするわけではなく、企業の販促活動のニーズに応じて、ライブドア・ブログの登録者の中から、PR活動に最適なブロガーを選び出すシステムを用意した。

PV数だけでなく、ライブドア・ブログに用意された37のジャンル、236のカテゴリ、1,100の共通記事テーマから、該当するブログを洗い出して検討する「オーダーメード抽出」システムを採用。単にPV数が多いというだけではなく、製品の特性をしっかりと理解しており、何よりも製品の情報を届けたいターゲット層とのネットワークを持っているブログ――メディアとして発言力があるブロガーに執筆を依頼することによって、クチコミマーケティングのリスクを回避する。

企業にとっては(多少、意地の悪い言い方を許してもらえば)「効果の望めないブログ」を切り捨てられるという利点がある。このように、影響力の強いブロガーを選定する基準を設け、ブログを通じたPR活動の精度を高めていくといったアプローチは、今後より盛んになっていくことだろう。また、ブロガーへのPR資料の作成や商品サンプルの提供といった実務的な作業は、ライブドアおよびブルーカレント・ジャパンが担当するため、顧客企業はマーケティングにおける負担を減らすことができるのもメリットだ。

もちろん、これを広告代理店による「中抜き」と見ることもできる。だが、インターネットを用いたマーケティングの多様化が続く限りは、常に新しいニーズが発生し、新しいビジネス・チャンスが生まれるもの。「ライブドア・インフルエンサー・プログラム」も、そうした時代の必要性をキャッチしたものといえるかもしれない。こうした機会を敏感に察知し、すばやく捉えることができるかどうかが、今後はすべての人々にとって(個人・団体を問わず)飛躍のカギとなるだろう。いずれにせよ、これまで「コントロールは困難」だと見られてきた、ブログを活用したクチコミマーケティングが、新たな段階に進もうとしていることは間違いがなさそうだ。