社団法人デジタル放送推進協会はホームページを通じ、「ダビング10」運用開始日時を7月4日(金)午前4時にすると発表した。元々は6月2日に予定されていたが、著作物複製の補償金をHDDレコーダに課金するという案がきっかけとなり、メーカー側と権利者側が激しく対立。土壇場の妥協でなんとか実施が決定したが、デジタル時代の著作物対価の還元をどうするかという根本的な議論は先送りとなった形だ。

7月4日(金)午前4時の決定案は、総務省の「デジタル・コンテンツの流通の促進等に関する検討委員会」の第五次中間答申案の中で、30日に開かれた同省情報通信審議会 情報通信政策部会の会合で報告された。

同委員会は2007年8月2日、第四次答申として、現在は「ムーブ1回」の「コピーワンス」となっているデジタル放送の運用ルールを、「コピー9回+ムーブ1回」の10回とする「ダビング10」とする案を提示。

この案では「ダビング10実施には、権利者への適正な対価の還元を前提とする」ことを明記。権利者側は「適正な対価」を「私的録音録画補償金」として受け取ることを構想していた。

私的録音録画補償金は、私的使用を目的とした個人または家庭内での著作物の複製について、一定の割合で録音録画機器のメーカーから補償金を徴収し、著作権権利者への利益還元を図るもの。権利者側は、ダビング10の実施にあたっては、iPodなどの携帯音楽プレイヤーやHDDレコーダー、次世代DVD、PCといった現行の補償金制度外の機器についても補償金の対象に含めるよう求めてきた

だが、こうした要求は、機器を製造するメーカー側には過大なものと映った。同補償金について議論する「私的録音録画小委員会」で今年5月に文化庁から示されたHDDレコーダーなどへの課金案について、メーカーは猛反発。これに対して権利者側も「メーカーは議論のちゃぶ台をひっくり返した」と感情論を爆発させた

それが一転、今回の実施決定につながったのは、「権利者VSメーカー」という対立構造の中で、国民の間に「消費者不在」の声が日増しに高まっていたためとみられる。デジタル放送録画の需要が高まることが期待される北京五輪の開催を控え、権利者側もこうした声を無視することができなくなっていたのだ。

しかし、ダビング10実施は決まったものの、デジタル時代における著作者への対価の還元をどうするかという根本的な課題は、先送りされることとなった。ダビング10実施を決めた19日の総務省委員会で、ダビング10実施を容認する発言を行った日本芸能実演家団体協議会の椎名和夫氏は、「私的録音録画補償金以外にどのような対価の還元方法があるのか考えてほしい」と苦渋の表情で語った。

総務省や政府の知的財産戦略本部などでの今後の活発な議論が望まれる。