人口減少とテレワークの関連性

NECが主催する「企業におけるテレワーク推進セミナー2008~企業を支援するテレワーク活用セミナー~」が2月29日に行われ、総務省情報流通高度化推進室・室長の藤本昌彦氏が「テレワークの推進に関する政府の取組について~2010年テレワーク人口倍増に向けて~」と題した基調講演を行った。

総務省 情報流通高度化推進室 室長 藤本昌彦氏

2007年5月に政府のIT戦略本部が策定した「テレワーク人口倍増アクションプラン」とは、2005年度に10.4%だった、日本の就業者人口に占めるテレワーカー(在宅勤務)の割合を、2010年までに20%(約1,300万人)にまで引き上げようという政策だ。現在までに、厚生労働省を筆頭に各府省がテレワーク推進のための36施策を打ち出しているが、総務省は情報通信システム基盤や制度環境の整備を中心に7施策を計画し、重要な役割を担っている。

藤本氏は冒頭で、日本の人口構成と将来推計を紹介。「日本の総人口は2004年にピークを迎え、2005年からは既に人口減少に転じている。65歳以上の老年人口の割合は2005年に20.2%、15 - 64歳までの生産年齢人口は66.1%、14歳以下の人口は13.8%。現在は、3人で1人の高齢者を支えているが、このままいくと、2030年には1.7人で1人を、2055年には1.2年で1人を支えなければいけなくなる。社会のシステムに新しい仕組みを取り入れなければ、このままだと社会が成り立たなくなってしまう」と、政府がテレワーク施策を積極的に展開し始めた第一の理由が、人口問題に対する危機的状況の打開策として期待を集めている点にあることを明確に語った。

シンクライアントシステム導入による「テレワーク試行・体験プロジェクト」の結果

そんな中、総務省と厚生労働省が2007年11月から2008年1月にかけて共同で行った施策に「テレワーク試行・体験プロジェクト」がある。同プロジェクトでは、公募で集められた約100の企業/地方公共団体がUSB認証キーをパソコンに挿入するだけで、セキュアな環境による社内システム接続が可能になる"シンクライアントシステム"を利用したテレワークを試行。シンクライアントシステムとは、会社に設置するクライアントサーバと、自宅に設置するクライアント端末により構成され、動作は双方の端末が一体となって行われるが、情報処理はすべてサーバ側で実行され、端末側はキーボード操作と画面情報のみを送信し、ハードディスクの有無にかかわらずデータが残らない仕組みになっている。端末の紛失/盗難/不正操作などへのセキュリティ対策がすべての端末で一定レベルに維持できるのが特長だ。

藤本氏は「結果は、取りまとめ中だが、参加企業にはサービスをそのまま続けたいというところもある」と、概ね肯定的な結果が得られたことを示唆した。また、総務省では、そのほかにも全国5カ所の自治体で、IPv6を活用したテレワークシステムや、SaaSを用いたテレワークアウトソーシングシステムなどの実証実験を行っていることを紹介した。

また、総務省では育児/介護に携わる職員を対象に、2006年10月から中央省庁でははじめてテレワークを本格導入し、翌年5月からは対象を全職員に拡大している。「欧米、特にアメリカでは、テロや鳥インフルエンザなど、危機管理という観点でもテレワークが普及している。そういう意味では、中央省庁こそテレワークが必要」と、自らの考えを述べた。さらに、総務省ではテレワーク推進のための環境整備以外の施策として「テレワーク環境整備税制」を2007年度に税制支援措置として創設している。これにより、2007年4月1日から2009年3月31日の間、シンクライアントシステムやVPN装置など、テレワーク関係の設備の導入を行う、法人/個人事業者は、取得後5年度分の地方税について課税標準を3分の2になるという。

テレワーク推進の社会的意義

テレワーク推進にあたっては、さまざまな省庁がそれぞれの角度から取り組みを行っているが、中でも総務省のアプローチは、ICT(情報通信技術)の活用にある。総務省では、2010年までにブロードバンドの世帯普及率目標を100%に掲げており、テレワークの推進とブロードバンド化は切り離せない施策だと言える。藤本氏は「昔のようにブロードバンドがない時代ではなく、今まさにテレワークが行える時代が来た」と語った。さらに「テレワークは環境負荷経験の効果もある。今年から今日と議定書でもCO2など温室効果ガスの削減目標が定められており、ITU(国際電気通信連合)でも「気候変動とICT」として定量化による評価が行われる」と、拡大しつつある、テレワークの社会的意義を強調した。

一方、「テレワークの成果をどう評価するか?」という参加者からの質問に対して「オフィスでの仕事も定量化は難しい。そういう意味では、オフィスも在宅も同じこと。テレワークは、"ワークライフバランス"的効果も期待できる。企業にとっては直接的には関係ないかもしれないが、廻りまわって影響するものだと思う。実証実験の結果でも、生産性に対する効果は少なくとも下がったことはない」と、企業におけるテレワーク普及を促した。