米IBMは2月21日(現地時間)、ドイツのレーゲンスブルク大学との共同研究で「単一の原子が物質の表面上を移動するのに必要な力の計測」に成功したことを発表した。同技術を応用することで、ナノテクノロジ分野や、将来的に半導体プロセスの微細化が原子レベルに到達した際、これら物質の制御や構成を行う手法の開発に役立つことが見込まれるという。

同研究は、米カリフォルニア州サンノゼにあるIBMのAlmaden Research Centerで行われたもの。ある物質の表面上にある原子が貼り付いた状態(粘度のある状態を意味する"Sticky"の表現が使われている)にあるとき、その原子を動かすためにどの程度の力が必要かを計測した結果が今回の研究成果である。例えばコバルト原子の場合、平坦なプラチナ平面上を移動するのに必要な力は210ピコニュートン("力の単位" 1ニュートンの10のマイナス12乗、1兆分の1)、銅の平面上を移動するのにかかる力はそれより少なく17ピコニュートンとなる。

実験にあたっては、AFM(Atomic Force Microscope : 原子間力顕微鏡)が利用されている。AFMでは原子の移動にかかった力や向きを測定する。装置の先端には振動するレコード針のような部品がセットされ、この先端部分と原子の間で発生した力が原子を物質の表面上で移動させる。そのようすについてはイメージ映像がYouTube上で公開されている。

ある物質の表面に貼り付いた原子を動かすのに必要な力を計測する

実験に使用されたAFM(Atomic Force Microscope : 原子間力顕微鏡)

こうした仕組みにより、ある物質上で個々の原子を動かすのに必要な力の正確な計測が可能となる。将来的に「Atom Manipulation(原子の操作)」による原子レベルでの物質の加工が可能になり、コンピュータ技術や医療分野など、ナノテクノロジの研究が進む各分野での活用が期待できるとIBMでは説明する。奇しくも同研究所ではちょうど19年前の1989年2月22日、米IBMフェローのDon Eigler氏がXenon原子を並べて「IBM」の文字を原子レベルで描写するデモを成功させている。

なお、この研究論文は2月22日発行の科学誌「Science」に掲載される予定という。