NECは20日、経営説明会を開催、矢野薫社長は「NGN(Next Generation Network: 次世代ネットワーク)はIP技術を共通項として、インターネット、放送、通信などを融合化させる」と指摘。グローバルなイノベーションカンパニーを旗印に、NGNを新たな事業を拡大させるための基盤と捉え、成長戦略の主軸と位置づけるとともに、海外市場での存在感を大きく示すことを目指す。これらの目標を達成するための指標として、3年後をめどに、ROE(株主資本利益率)10%と、海外での売上げ高比率を40%程度にまで向上させることを図る。

NEC 矢野薫社長

矢野社長はNGNが最重要である理由として「NECのあらゆる事業領域で、新たな事業機会を創り出すことができるからだ」と語る。同社の構想しているNGNの構造では、従来のネットワークインフラの上に、事業を具体化していく際の基盤となるNGNサービスプラットフォームがある。同社では、ネットワークを通じた動画を多用したアプリケーションやソリューションの増加にともない、映像管理/配信、課金/決済、認証など、今後サービスプラットフォームの需要が拡大すると見ているが、「NGNの先駆けといえるようなプラットフォームはすでに始動している。ITの世界では(アプリケーションや業務の)サービス化の流れが進んでいる。これにより、3年後くらいにはITサービスの売上げは4,500億円程度になるのではないか。そのかなりの部分がNGNのサービスになるだろう」(同氏)としている。

NGNへの投資については「NECでは、売上高の7 - 8%を研究・開発費に充てている。NGN構築事業でいえば、(投資規模は)今日現在ではまだ小さいが、将来的にNGNは1兆円程度の売上げを見込んでいる。その1/10、1,000億円ほどの投資が毎年なされることになる」(同氏)との考えだ。また、3年後をめどとしたROE10%との目標を達成するには「営業利益を2千数百億円程度にしなければできない」(同氏)とした。

NGNのプラットフォームの確立にあたり、同社は最近次々と新たな施策を打ち出している。まず、12日には仏Alcatel-Rusentとの提携を発表、第3世代携帯電話(3G)技術仕様の長期的な発展形である「LTE(Long Term Evolution)」についての開発を担う会社を共同出資で設立する。LTEは既存の3.5Gと4Gの間に位置することから、3.9Gあるいは「Super3G」とも呼ばれており、下りにはOFDMA(Orthogonal Frequency Division Multiple Access)を、上りにはSC-FDMA (Single-Carrier Frequency Division Multiple Access)が用いられる。最大のデータ転送速度は下りで100Mbps、上りでは50Mbpsになるとされる(NTTドコモは、下り300Mbpsを目指す実証実験を開始している)。

NGNはインターネット、放送、電話などを融合化する

LTEは2009 - 2010年には日本および北米で、2011年以降西欧で実際のサービスが開始される見通しで、2015年までにはユーザー数は4億人以上になるとの予測(出典:Analysys Research)もある。NECでは、2012年までにLTEの市場規模は年間3,000億円以上に、2015年までにの累計市場規模は1兆5,000億円と推定しており、今回の合弁会社を軸にいち早くLTE分野での技術開発で先端的な位置を確保し、携帯電話の進化を最大限の追い風にすることを目論んでいる。

次いで14日には、サービスプラットフォームの開発と海外展開を焦点に米BEASystems、米Microsoft、米Hewlett-Packard、米EMC、米Oracle、米Sun Microsystemsの6社と提携を強化した。さらに、2月19日には、ソリューション開発、アプリケーション・サービス事業、アジアでの協業などを中心に、SAPジャパンとの提携を発表した。

これらは、サービスプラットフォームの確立に際して、強い支柱を打ち立てることが主眼だが、海外展開への足がかりにもなる。矢野社長は「通信事業の大幅縮小の影響を受け、海外での事業規模が減じてしまった。とりあえず海外での売上げ比率40%を目指すが、3年くらいでは実現すると思っていない。第1段階として2 - 3年で(現行の)20%台を30%に引き上げる」としたうえで、40%以上を狙う場合「どうしても、M&A的な手法は必要になる」との考えを示し、「胸を張って、グローバルなイノベーションカンパニーといえるようになるには、(海外での売上げ比率が)50%以上が必要」としている。

矢野氏がNECの社長に就任したのは2006年4月、今年で3年目を迎える。矢野社長はここまでを振り返り「1年目は目的を達成できず不本意だったが、2年目は最低限目標を達成できたと思っている。ただ、これで十分というような満足すべき水準ではまったくない。できていないことはたくさんある」と述べ、「できていない部分」の例として「グローバル化」を挙げた。

NECは1977年に、当時の小林宏治会長がC&C(Computer & Communication:コンピュータと通信)との基本思想を掲げ、早くからコンピュータと通信の融合を標榜していた。C&Cは提唱されてからすでに30年が経過した。インターネットとブロードバンド化の進展でC&Cの発想は、今花開いているともいえる。同社は今回「米国を中心とした経済環境の先行き不透明感」(同氏)を理由に中期計画を出さなかったが、矢野社長は「次の30年には新たな言葉が必要になる。次の発展段階に来ている」とも話す。