ISSCC 2008のマイクロプロセサのセッションは、全ての発表が製品レベルであるが、これとは反対に、実用化には距離があるが、新たな用途を切り開く技術に関するTechnical Direction(TD)と題するセッションがある。2008年のTDセッションのテーマは"Electronics for Life Science"である。
このTDセッションの最初の論文7.1は、日立の発表で、30立方cmというコンパクトな箱に、体温のモニタと802.15.4の無線インターネット端末機能を組み込み、5μAという微小な電源電流で動作させることにより、3年間のバッテリライフを実現した。この装置により、4ヶ月間連続で体温をモニタし、隠された生活のリズムを可視化した結果を報告する。
ハーバード大学等が発表する論文7.3は、超小型のNMR(Nuclear Magnetic Resonance)システムに関するもので、0.18μmのCMOSプロセスで作ったRFパルス発生器とRFセンサーにより、体積は2500立方cm、重量は2Kgを実現した。これは、現在のNMR装置に比べて1/40の体積、1/60の重量である。そして、感度は現在の製品と比較して60倍高く、この技術を使えば、安価でポータブルなNMR診断装置を実現できるという。
ドイツのUlm大学などが発表する論文7.5は、40×40ピクセルの光センサーを持つ網膜を代替するチップに関するものである。このチップは、0.35μmプロセスで製造されチップサイズは3×3.5mmである。光センサーの信号を4Vppの電気信号に変え、直接、視神経に伝える。このようなチップが実用になると、失明した人にとっては大きな福音となると思われる。
コロンビア大学の発表する論文7.7は、脳細胞を直接刺激する256×256ピクセルのアレイチップに関するものである。0.25μmプロセスで製造され、4×4mmのチップには12.2μmピッチで電極が並んでおり、20nmの厚さの絶縁シートを介して容量結合で神経に信号を入力する。このチップは、50nsの時間分解能をもち、0.7V~4.2Vの範囲の電圧信号を発生する。現状では、直接、生物の脳に接続するのではなく、培養された脳スライスに信号を送り込むように設計されている。
このTDセッションではないが、UWBのセッションにおいて、南カリフォルニア大は7×7ピクセルのUWBを用いたカメラシステムを発表する。このシステムは1~15GHzで動作し、2×2のアレイのアンテナの間隔を3cmとすると、+/-30度の範囲をカバーし、10度の角分解能が得られるという。17.5psという時間分解能を持ち、生体内の器官の動きを直接観測することが可能になると期待される。
また、MEMS and Sensorsのセッションにおいて、英国のグラスゴー大学から、細胞内のイオン活動を、細胞外から検知するFETを用いた16×16ピクセルの水素イオン活性度を可視化するカメラチップが発表される。このチップは0.35μmプロセスを使っており、ピクセルのサイズは12.8μm角である。