米Oracle主催の「Oracle OpenWorld(OOW) 2007」が米カリフォルニア州サンフランシスコ市内のコンベンションセンターで開催されている。一般参加日初日にあたる12日の月曜日(現地時間)には、同社プレジデントのCharles Phillips氏によるオープニングキーノートが開催された。同氏のスピーチでは過去30年を振り返りつつ、現在そして将来に向けた同社の戦略やポジションを解説、最後に今回のOOWのハイライトが紹介された。
Oracleを支える3つの柱
すでにご紹介のように、Oracleは今年創立30周年を迎える。世界初の商用リレーショナルデータベース(RDB)を発売してから、同社は一貫してデータベースソフトウェアの企業であり続けた。だが時代は変化し、創立25周年にあたる5年ほど前に1つの転機を迎える。これまで収入の大きな柱だったデータベースだけでは成長の限界に突き当たったのだ。そして顧客の問題を個別に解決するためのシングルソリューションベンダではなく、より広い意味で顧客の問題から真っ正面に向き合い、1つの完成したソリューションを提供するベンダーへの脱皮を目指すOracleの挑戦が始まった。その新生Oracleの戦略の中核を担い、新世代のリーダーとして陣頭指揮を執るのがCharles Phillips氏だ。
Phillips氏は冒頭のスピーチの中で、Oracleの現在の柱は「データベース」「ミドルウェア」「アプリケーション」の3つに集約されると説明する。データベース分野でのOracleの実績は周知の通りだが、同社によればその市場シェアは47%。業界2位以下の数字をすべて合わせて、ようやく追いつくレベルだ。No.1戦略を標榜する同社にとって、データベースは間違いなく事業の柱の1つだ。
次いで、Oracleが次の柱の1つに育てようとしているのがミドルウェアである。ミドルウェアはすべての技術の根幹であり、Oracleの製品どうしだけでなく、買収済みのPeopleSoftやSiebel、さらにライバルのSAPやMicrosoftまで、すべてのアプリケーション製品群のハブとなる技術でもある。「われわれOracleアーキテクチャのすべての基盤」というのがPhillips氏の考えだ。そして3つめがアプリケーション。CRMやHRM、EPMといった用途別ソリューションから、リテール - 金融セクターといった業種別ソリューションまで、幅広い領域をカバーする。データベースに続き、ミドルウェアとアプリケーションの両分野でもトップを目指し、業界No.1の安定した基盤を築くのがOracleの当面の目標だ。
そのためにOracleが採用したのが、積極的な買収/合併策だ。内製のアプリケーションにこだわらず、顧客のニーズに合わせて足りないソリューションを買収で補完していく。「30年もの技術革新の間に発生した技術のフラグメンテーションを解消する」というのがその方針だ。方針転換を発表した2002 - 2003年ごろから買収件数は急増し、2004年のPeopleSoft買収をもってその動きは加速していく。完成された1つのソリューションベンダを目指すうえでの通過点となる。「買収はイノベーションを素早く顧客に届けるための手段の1つ」と、Phillips氏はそのメリットを強調する。
Oracle第2の柱となるミドルウェア。Oracleはここでも業界No.1を目指す |
Oracle第3の柱のアプリケーション。PeopleSoft買収から連綿と続く一連の買収劇とソリューション強化の延長にある。またミドルウェアの強化も、こうしたアプリケーションを安定して動作/連携させることが目的にある |
「Oracle VM」ほか新製品が続々
Oracle自身のサマリーを説明した後、OOWの冒頭を飾るキーノートでは今回のイベントのハイライトが紹介された。下記は、OOWのタイミングで新しく発表された製品群である。
- Oracle Application Integration Architecture(AIA)
- Oracle Fusion Middleware 11g - Beta 4
- Oracle LogicalApps Active Governance
- Oracle Agile PLM
- Oracle Enterprise Manager 11g - Beta
- MyOracle Support: Software Configuration Manager
- Oracle VM
この中での最大の目玉はOracle VMだ。昨年のOOW 2006では、CEOであるLarry Ellison氏のキーノートの中で突然のサプライズとして「Unbreakable Linux(UBL) 2.0」の提供がアナウンスされた。Oracle初の仮想化(バーチャライゼーション)技術となるOracle VMは、このUBLを補完するものとなる。UBLをはじめ、WindowsやRed Hat Linuxなど、x86プロセッサ向けのさまざまなOS環境の仮想化に対応する。特にOracleのグリッドソリューションと親和性が高いのが特徴で、Oracle向けにチューニングされた仮想化技術といえる。またコンプライアンスソリューションであるOracle LogicalApps Active Governanceなども注目だ。
Phillips氏がOracleのアプリケーション戦略として掲げるのが「より完成された(more complete)」「よく統合されている(better integrated)」「オープンスタンダードに基づいた(open standard)」なアーキテクチャだという。社内の各部門や役職が抱える問題を、すべてまとめて1つのアプリケーションスタックで解決していくのが基本スタンスだ。壇上には米Oracle製品開発部門担当エグゼクティブバイスプレジデントのChuck Rozwat氏が登場し、個々の抱える問題にOracleの新製品でどう対応していくのかを紹介した。
たとえば、今日の企業戦略において買収/合併といったM&Aは不可欠なものになりつつあるが、その際に発生するシステム統合は経営者にとって頭の痛い問題の1つだ。Oracle AIAはその問題に取り組む1つの解となる。OracleやSiebel、あるいはSAPといった別々のアプリケーションで構成された複数のシステムを統合する場合、AIAを利用することで通常よりもスムーズに統合作業を行える。M&A以外でも互いに素だったシステムどうしを結びつけてより有機的なシステムを構築するなど、システム統合をより戦略的な武器とすることも可能だ。このほかDatabase VaultやAudit Vaultによるコンプライアンス強化や新しいEnterprise Managerによるシステム管理機能の強化など、より複雑化するシステムをいかに効率的で安全に管理するかが1つのテーマになっていることが伺える。
より完成されたソリューションを目指すOracle。そのアプリケーションに対する理念が「more complete」「better integrated」「open standard」の3つだ |
米Oracle製品開発部門担当エグゼクティブバイスプレジデントのChuck Rozwat氏が、企業の抱える問題を解決する最新のソフトウェア製品群を紹介する |
鍵となるのはやはり仮想化 - 米AMD CEOのHector Ruiz氏講演
Phillips氏とRozwat氏のオープニングキーノートの後は米Advanced Micro Devices(AMD)会長兼CEOのHector Ruiz氏が登場し、コンピューティングの世界やAMDをとりまく最新トレンドについて語った。Ruiz氏が開口一番に切り出したのがクアッドコアプロセッサと仮想化の話題だ。
同社は9月に最新プロセッサのクアッドコアOpteron(開発コード名: Barcelona)リリースを発表したばかり。この講演の行われた12日にはライバルの米Intelがサーバ向けの45nmクアッドコアプロセッサを発表しており、サーバの世界でマルチコアはすでに当たり前のものとなりつつある。このマルチコア環境を最大限に活用できるのが仮想化によるサーバ統合の分野だといえる。「AMDが現在力を入れているのが仮想化への取り組みだ。最新のOpteronプロセッサは仮想化に最適の製品だといえるだろう」とコメントする。VMwareをはじめ、MicrosoftのHyper-V、そして今回のOracle VMなど、ここ最近は仮想化に関するニュースがひっきりなしに飛び込んでくるIT業界。クアッドコアOpteronで再起をかけるAMDにとって、仮想化ブームはひとつの鍵となるだろう。
AMDが新型Opteronでもう1つ強調するのはパフォーマンスだ。現在、米テキサス州オースティンにあるテキサス大学のTexas Advanced Computer Center(TACC)では、このクアッドコアOpteronを1万5,000個搭載したスーパーコンピュータを構築している。ピーク時のパフォーマンスは500TFLOPSに達するといわれ、もしこれが達成できれば来年2008年のTop 500で米エネルギー省ローレンスリバモア研究所のIBM BlueGene/Lの280TFLOPSを抜いてトップへと躍り出ることになる。スーパーコンピュータの性能上位をIBM製プロセッサが占有していくなかで、x86陣営からの反撃開始といったところだ。